国(国土交通省鉄道局)は京成の負担する線路使用料について北総鉄道と千葉ニュータウン鉄道の収支均衡が確保されていることから鉄道事業法第15条3項の「適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれがあると認める場合を除き、認可をしなければならない」という規定に合致していると説明しています。
その論理は次のようなものです。
① 「第二種鉄道事業者が負担する線路使用料は、同事業者が使用する鉄道施設の資本費相当分をベースとして適正に算定されているものか。」(鉄道局の判定基準)
② 「第二種鉄道事業者に対して貸し付ける鉄道施設に係る資本コストを基本に算出された線路使用料収入を持って、第三種鉄道事業者の事業運営が成り立つかどうか。」(鉄道局の判定基準)
③ 運賃収入配分による北総区間における北総鉄道もしくは千葉ニュータウン鉄道から京成への乗り換わりの収入影響額が①の線路使用料を上回った場合に超過分を追加線路使用料として払う。
「この結果、成田空港線開業後においても、北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道の収支均衡は確保されているものであることから、基本的に両社の長期収支見込みは変わらないものである。」というのが鉄道局の見解です。
しかし、これはとても不思議な理屈です。線路を貸しても損はしないけど得もしないという事実を「収支均衡の確保」とか「長期収支見込みは変わらない」と表現しているだけで完全に詭弁です。
正味の収入が増えない取引をするバカは普通いないと思います。本来、線路使用料と運賃収入配分は何の関係もないはずです。北総鉄道には運賃収入配分を拒否するという選択もあったはずです。対等な取引なら京成が追加線路使用料を払わなければならない理由はないはずです。対等な取引ならリスクはお互いに負うべきです。
京成への乗り換わり収入とは結局、北総鉄道が本来、収受するべき運賃収入だということだろうと思います。線路使用料を超える分を追加線路使用料として払うというのは取りすぎた分はお返ししますということに他なりません。
アクセス特急の運行による利便性向上が北総鉄道の増収につながらないのなら北総鉄道は値下げの代わりに利用者の利便性向上のためにアクセス特急の運行を受け入れたということでしょうか?
北総線利用者が乗り換わりすらできないスカイライナーに至っては利便性の向上どころか、通過待ちにより利便性の低下を招いており、スカイライナーは北総線区間を走行しても運賃収入配分と線路使用料の対象外です。スカイライナーの線路使用料はどうなったのでしょうか。
こうして考えると北総線区間の線路の利用形態は賃貸関係ではなく、まるで京成との共同使用というのが実態ではないでしょうか。
減収が前提の運賃収入配分などあり得ない取引です。現実に北総鉄道の平成27年度の運輸収入は成田空港線開業前の平成21年度より10億円以上下回っています。6年も経過しているのに平成19年度の水準すら下回っています。
運輸雑収を含んだ収入全体で増えているからということにはならないと思います。北総鉄道の本来の利用者数も運輸収入も外部からは分からなくなっています。
平成24年度の北総鉄道の事業報告書には「京成電鉄株式会社からの線路使用料収入の伸びが6.3%増と、当社の旅客収入の伸びを上回って推移していることからも、アクセス特急の認知度の向上に伴って当社の営業収益に寄与していることは明らかです。」と記載されています。
この年の旅客収入(運輸収入)は運賃収入配分の影響で成田空港線開業前の平成21年度の131億円から116億円と15億円あまり減少しており、平成18年度の水準以下です。3社の協定により線路使用料は資本費相当分(減価償却費、金利の分担額)、租税相当分(諸税の分担額)、管理費相当分(一般管理費の分担額)の合計額に消費税を加算した額とされています。
旅客収入の伸び率と比較すること自体ナンセンスだと思います。平成24年度の線路使用料は認可時収入原価表の数字とほぼ同じであり、平成22年度と平成23年度は認可時の見込み数字を下回っています。
しかも、上記平成21年度と比較したときの平成24年度の運輸収入の減少額15億円と線路使用料収入額が拮抗しています。線路使用料をもらってもプラス・マイナス0ということになります。それとも不透明な運賃収入配分で「京成の使用に対応する額」が増えたことで線路使用料が増えたと主張したいのでしょうか。
鉄道局の論理は京成の線路使用料が成田空港線開業前の北総鉄道の運輸収入を確保しているので「収支均衡の確保」が図られており、「長期収支見込みは変わらない」から「適正な運営の確保に支障を及ぼすおそれ」がないと認められ、鉄道事業法第15条3項に基づき「認可をしなければならない」ということのようです。
北総鉄道の収支均衡が確保されているとか長期収支見込みは変わらないという鉄道局の説明は北総線区間の成田空港線の利用は収支には関係ないが、北総線と成田空港線の鉄道経営の安定性が確保されているので利用者の利益に敵っているということなのでしょう。
だから北総線の線路を使用しているスカイライナーが運賃収入配分の対象から外されて線路使用料の「京成の使用に対応する額」にスカイライナーの使用分が含まれていなくても問題ないということなのでしょう。これを詭弁と言わずに何を詭弁というのでしょうか。
こうして考えると線路使用料と運賃収入配分が一体化した協定が作成された理由が分かります。京成が成田空港線を開業する前提がスカイライナーの線路使用料は負担しないということだったのだと思います。
運賃収入配分自体にも問題があります。リース事業の場合、リース期間が終了すると資本費の減価償却費と金利の負担がなくなり、リース期間終了後の再リース取引は事業者にとって大きな収益源となります。
北総鉄道の場合、減価償却費はほとんど増減がありませんが、金利については鉄道運輸機構の債務の償還が元利均等返済の後期に入り、金利負担が急速に低下しています。これにより資本費のウェートが大幅に下がり、多額の利益が出るようになっています。
北総鉄道は運賃収入が増えなくても金利負担の急速な低下で利益が出る体質になっています。アクセス特急ではなく、北総鉄道の体力に見合った自前の特急を増やすことにより利便性を向上させて利用者を増やして運賃収入を自らの努力で増やすという選択肢がアクセス特急の運行によりなくなってしまったように思います。
体力に見合った特急の増設による減価償却費の増加は節税対策にもなり、負担となっている鉄道運輸機構の債務の元本返済の原資の増加につながります。必要な車両の購入は県と沿線自治体からの増資で賄えばいいと思います。アクセス特急を減らして北総鉄道の特急を増やすことで本来の利用者を増やすべきだと思います。
アクセス特急自体、スカイライナーで取りこぼした低運賃志向の空港利用者をすくい上げることが目的と考えられ、北総線利用者の利便性向上は反射的なものに過ぎないと思います。にもかかわらず、そのことが北総線利用者に対する成田空港線の訴求力になっているのは皮肉なことです。問題のすり替えが起こっています。
京成からはしっかりとスカイライナーの線路使用料を徴収するべきです。線路使用料と運賃収入配分がセットになった取引は利用者側から見れば目くらましにも等しいものだと思います。多額の税金を投入した鉄道事業が利用者のためではなく、事業者の利益確保に重点が置かれているのが現実です。行政が事業者を見て仕事をしているのが日本の現実です。
京成、北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道3社の間で取り決められた線路使用料と運賃収入配分に関する特異な協定は、不明朗なグループ間取引によるものです。千葉ニュータウン鉄道に至っては京成の登記上だけのペーパーカンパニーであり、住所だけの事務所も存在しない企業です。
京成と分身の千葉ニュータウン鉄道の取引は企業内部の循環取引に過ぎません。3社すべてに人的・資本的なつながりがあり、利害相反行為が平然と行われています。
本件に対する鉄道局の見解が運輸審議会の議事録に残されています。
「親子関係にあるかどうかは別として、当事者間で取り決めた線路使用料については、行政当局が、一定の基準に従い、その裁量の範囲内で当否を判断することになる。その後は、行政当局の判断に対して関係者から不満が出た場合に、どのように対応するかの問題であろう。」
鉄道事業法もあいまい、上限運賃が適正かどうかを審査するための収入原価算定要領もあいまい、上限運賃の申請や変更があったときに公開される書類しか国が行う査定内容を外部から確認する方法がなく、公聴会はセレモニーに過ぎません。認可後には利用者側からの対抗手段はなく、認可されたらそれでおしまいです。
公正でも公平でもない認可が天下りを通して鉄道局と事業者の談合で今後も行われ続けていくものと思います。
以下に北総鉄道の収益状況と運輸審議会の議事録の抜粋等の資料を集めてみました。興味のある方は参照してみてください。
(注)運輸雑収に含まれる「成田スカイアクセスの業務受託手数料」は基本協定第9条(運行の管理、駅業務等)によるもの