2020年7月3日に北総鉄道のホームページに2019年度の決算が公表?された。しかし、中身がほとんどないお粗末な内容だ。同じように鉄道運輸機構からの巨額の債務を抱える東葉高速鉄道と比較すると北総鉄道の財務諸表には明細がない?と言ってもおかしくないレベルだ。
東葉高速鉄道も著しく損益が改善しており、債務超過額は5,630百万円まで減っている。、コロナ禍による影響は不透明だが、来期も3,356百万円の純利益を見込んでおり、あと2年で債務超過が解消されることになりそうだ。
北総鉄道と東葉高速鉄道の財務内容が急速に改善している理由は急激な支払利息の減少によるものだ。支払利息の減少は、低金利によるものだけではない。一番の理由は鉄道運輸機構への債務の返済方式にある。
元利均等返済方式は元利合計が最終回の返済まで変わらないので住宅を購入する人には資金計画が立てやすいというメリットがある。しかし、元利均等返済方式は複利計算のため元金均等返済方式に比べて金利が増え、総支払額が増えるという欠点を抱えている。
借入当初は金利の支払いが大半で、後半は元金の返済が中心になる。毎回の返済額が変わらず、損益を考慮する必要がない個人の借入の返済には向いている制度だが、事業者が元利均等方式で資金を調達したら初期の段階で金利負担で事業破綻する可能性がある。
信じられないことだが、鉄道運輸機構への返済方法が元金均等返済方式ではなく、元利均等返済方式(機構自身の調達資金の借り換え時に返済額が見直される)が採用されている。普通、事業者が元利均等返済方式で借入をすることはあり得ない。銀行も事業資金を元利均等返済方式で事業者に貸し付けることはない。あるとすれば資金繰りに行き詰った事業者が消費者ローンに手を出したときくらいだろう。
それなのになぜこんなサラ金のような返済方式を鉄道運輸機構が採用したのだろうという疑問が湧くと思う。鉄道運輸機構は鉄道建設にかかったコストをすべて事業者に転嫁し、赤字になることがないしくみになっている。このしくみのために鉄道運輸機構のすべての事業コスト(一般管理費、機構自身の借入金の金利等)を鉄道事業者が支払う支払利息に上乗せする必要がある。
鉄道運輸機構の調達資金のうち債券を除く借入金はすべて元金均等返済方式で調達されているが、鉄道事業者の債務は機構の金利収入が増える元利均等返済方式を採用することで機構のコストを事業者の債務に上乗せしているわけだ。
鉄道は巨額の赤字を抱えても潰せないというロジックを使って考え出されたしくみが鉄道運輸機構の債権回収方式=元利均等返済方式だったのだろう。鉄道が潰れれば利用者が困る。鉄道を安定的に利用したかったら、高額の運賃を我慢しろということなのだろう。そして、事業者が利用者のために鉄道を維持する使命を果たすためには高額の運賃が不可欠だというロジックだ。
高額運賃で鉄道運輸機構も鉄道事業者もかかった費用の全額を利用者に転嫁してめでたし、めでたしということだ。このしくみを支えているのが総括原価方式だ。原発もこの方式ですべての経費を電気料金に転嫁している。
鉄道運輸機構は事業者が赤字になっても構わないので採算度外視の高規格の鉄道を作り続けることができたのだろう。鉄道運輸機構は国土交通省の重要な天下り先だ。国は鉄道運輸機構を通して鉄道事業者を支配できるから、国土交通省にとっては願ったり叶ったりのしくみだ。現実に北総鉄道には多くの天下りが入り込み、親会社の京成電鉄を庇護している。見返りに京成電鉄には国土交通省の指定ポストが用意されている。
安倍政権で役人の忖度が問題にされているが、彼らが自分たちの利益のために以前から事業者優位の政策で利権を得てきたという事実を忘れるべきではない。成田空港線の理不尽な事業認可はまたぞろも話題になっている当時の民主党の前原誠二が国土交通省の大臣だったときだ。役人は政治を利用して自分たちの権益をいつも守っている。
北総鉄道の貸借対象表には多額の「その他の流動資産」が計上されているが、HPに開示される貸借対照表には流動資産の合計額しか開示されていない。その他の流動資産には消費寄託金が含まれており、その他の流動資産の大半がこの消費寄託金だ。
消費寄託金とは銀行で言えば預金のことだ。資金繰りが厳しいはずの北総鉄道には多額の余裕資金があり、その余裕資金を京成電鉄に預金しているということになる。
だから、京成からの借入金から京成への預金である消費寄託金を控除した額が京成の正味貸付金ということになる。京成の子会社の千葉ニュータウン鉄道が公団線を買収した2004年度末のその他の流動資産12,295百万円に占める消費寄託金の額は実に12,100百万円だった。その時点の京成の北総鉄道に対する正味貸付金は352百万円のマイナスだ。
ペーパーカンパニーの千葉ニュータウン鉄道が公団線を買収したときに親会社の京成から多額の借入をしているが、京成が千葉ニュータウン鉄道への貸付金の原資として北総鉄道からの消費寄託金を充当していたことは自明だ。あるいは、消費寄託金というスキームを使って北総鉄道への貸付金を千葉ニュータウン鉄道の貸付金に挿げ替えたと言ってもいいのかもしれない。
同じ中小民鉄の事業者でこんなにその他の流動資産がある事業者はない。過去のデータと2017年度の鉄道統計年報の数字から判断すると現在も8,000~9,000百万円程度の消費寄託金があるのではないだろうか。ちなみに2017年度のその他の流動資産は10,026百万円だ。
その他の流動資産の額からすれば、まともな企業なら脚注で「流動資産合計にはその他の流動資産が含まれ、そのうちの〇〇百万円が京成電鉄への消費寄託金です。」と開示しているだろう。
千葉ニュータウン鉄道も先日、持続化給付金で注目された電通が支配しているサービスデザイン推進協議会と同じで決算公告による開示義務しかない。簡潔極まりない決算公告を見ても外部からは何もわからない。この協議会はその決算公告の届け出義務すら怠っていたのだからあきれるばかりだ。
国の審議会や外郭団体がいかにでたらめに運営されているかということを示すものだろう。北総鉄道は京成電鉄の子会社だが、大口出資者の国(UR)の外郭団体といってもいいようなでたらめの経営が行われている。責任を取らない、実務を知らない役人に民間企業の経営などできるわけがない。
以下は最近、「倶楽部の立ち上げの背景」に追加した記事からの抜粋だ。参考までに掲載することにした。
2020年7月3日「北総鉄道2019年度決算」ホームページに開示
コロナの影響で大幅な減収かと思っていたが、沿線の住宅開発による人口増で定期旅客が増加して輸送人員、旅客運輸収入ともプラスで着地している。高額運賃の効果は絶大だ。後2年で累積赤字も解消の見込みだ。しかし、20年前に最後の値上げをしたときに200億円近くあった債務超過を解消し、純資産は現在、200億円を超えている。その間、400億円の荒稼ぎをしたことになる。450億円近くあった累積赤字が10分の1の44億円になっても依然として巨額赤字と主張する事業者の面の皮の厚さには呆れてしまう。20年前からの累積赤字を根拠にして経営の言い訳にするような会社は普通ない。まともな会社なら多額の税金を払う代わりに早期に債務超過を増資で解消して株主に配当を払っていたところだ。何とも甘い株主の集まりだ。大株主の国は、配当より天下り先の提供と税金で還元してくれる方が望ましいのだろう。コロナの後手後手の対応を見ていれば国にまともな事業運営を期待しても空しいだけだ。優秀な役人がいるというのはもはや都市伝説だ。ちなみに有利子負債が677億円となっているが、鉄道運輸機構からの債務は現在、500億円を割っているはずだ。残りは京成からの借入残高なのだろう。しかし、北総鉄道が京成に預けている余剰金(消費寄託金)を差しい引いた京成からの正味の負債残高はたかが知れた額なのではないだろうか。北総鉄道の決算にメスを入れたらきっと経営陣は説明に困ることになるだろう。
<扉のフレーズ>
2016年度「有利子負債は768億円を超え、累積赤字も121億円と依然として巨額」
2017年度「有利子負債は741億円超、累積赤字も未だ96億円と依然巨額」
2018年度「有利子負債は708億円超、累積赤字も未だ70億円と依然巨額」
2019年度 「有利子負債は677億円、累積赤字も未だ44億円と依然巨額」
<次年度以降の見込み>
2016年度「沿線の住宅開発が順調に進んで、沿線人口が増加したことにより、当期は増収となりましたが、沿線人口の高齢化による旅客需要の減少も既に一部地域で現実のものとなっており、首都圏を含めわが国全体としても人口減少社会の到来が予測されるなか、今後の見通しについては、より一層不確実性が高まり厳しい局面を迎えることが懸念されます。また、多額の有利子負債をかかえている状況において首都直下地震対応の耐震補強工事や鉄道施設の老朽化に伴う更新工事など安全対策等の設備投資のための資金需要の増加も避けられない状況にあります。こうした中で、長期、安定的な輸送サービス継続のためには財務体質の改善が急務であり、このため経費の削減はもとより、有効な増収対策を推進するなど、より一層の経営健全化の達成に向けて邁進することといたします。」
2017年度「沿線の住宅開発が進み、沿線人口が増加したことにより、当期は増収となりましたが、沿線人口の高齢化による旅客需要の減少が既に一部地域で現実のものとなっており、首都圏を含めわが国全体としても人口減少社会の到来が予測されるなか、今後の見通しについては、より一層不確実性が高まり厳しい局面を迎えることが懸念されます。また、巨額の有利子負債をかかえている状況において、当社の使命であります鉄道事業を今後も安定的に継続するとともに、お客様により安全・安心、快適・便利にご利用いただくためには、鉄道施設の老朽化に伴う更新工事など安全対策等の設備やサービス向上への投資など、資金需要の増大は避けられない状況にあります。こうした中で、当社の喫緊の課題は財務体質の改善であり、このため経費の削減はもとより、有効な増収対策を推進するなど、より一層の経営健全化達成に向けて邁進して参ります。」
2018年度「沿線の住宅開発が進み、沿線人口が増加したことにより、当期は増収となりましたが、沿線人口の高齢化による旅客需要の減少が既に一部地域で現実のものとなっており、首都圏を含めわが国全体としても人口減少社会の到来が予測されるなか、今後の見通しについては、より一層不確実性が高まり厳しい局面を迎えることが懸念されます。また、巨額の有利子負債をかかえている状況において、当社の使命であります鉄道事業を今後も安定的に継続するとともに、お客様により安全・安心、快適・便利にご利用いただくためには、鉄道施設の老朽化に伴う更新工事など安全対策等の設備やサービス向上への投資など、資金需要の増大は避けられない状況にあります。こうした中で、当社の喫緊の課題は財務体質の改善であり、このため経費の削減はもとより、有効な増収対策を推進するなど、より一層の経営健全化達成に向けて邁進して参ります。」
2019年度 とうとう「次年度以降の見込み」という項目はなくなってしまった!
(ページの最後に)引き続き当社の使命である鉄道事業を安定的に継続するため、お客様により安全、安心に、より快適・便利にご利用いただくための設備投資などを進めるとともに、更なる経費節減や増収対策に積極的に取り組み、より一層の経営健全化を図ってまいります。
(注)更なる経費節減と書いてあるが、経費は減っているようには見えない。そもそも、費用の内訳をまともに公開していないのだから外部の人間が中身の検証をすることは不可能だ。具体的にどの経費を節減してきたのか説明してほしものだ。