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北総線の値下げに関する東洋経済の憶測記事~京成のいいとこ探し

 

 東洋経済オンラインから東京メトロ出身の鉄道ジャーナリストが執筆した北総線の値下げに関する記事が10月7日と10月14日の2回に分けて配信されている。一見、中立の立場から書かれているように見えるが、問題の核心や北総鉄道の人的・資本的背景にはまったく触れられていないやつっけ仕事のような奥の浅い「京成のいいとこ探し」の記事で終わっている。

 

 

 🔗高額運賃の北総鉄道「大幅値下げ」は簡単ではない ~「黒字」の損益計算書からは見えない事情がある(2021/10/07 東洋経済)

 

 🔗「運賃値下げ検討」北総が抱える線路使用料の実態 京成の支払額「安すぎ」との指摘は正しいのか(2021/10/14 東洋経済)

 

 選挙対策のガス抜きと逃げ場

 

 この記事が公開されたのが8日の衆議院解散の前日というタイミングだったのが興味深い。衆議院選挙立候補予定者が早くから公約の中に北総線の運賃を京成本線並みにと主張していることと関係しているのではないだろうか。

 

 彼らも内心は大幅な値下げとならないことを承知しているのではないか。あるいは事業者側とその点について合意ができている可能性もある。北総鉄道の値下げが小幅に終わったときの有権者の反発を予想して選挙前にガス抜きの記事を流したのではないのか。

 

 値下げの内容を決めるのは北総鉄道(というより京成)の専決事項だから適当なことを言っても選挙が終われば何とでも言い訳できる。

 

 政治的にメディアを使ってガス抜き記事を流すのはめずらしくない。橋下徹を広告塔にしている某メディアはよくガス抜き記事を配信している。

 

 ペンネームで書かれていることが多いが、突然、従来と正反対の記事を書くジャーナリストがときどきいてびっくりする。たいていの場合、メディア側に依頼されたであろうやらせ記事が多い。自分の本意と異なる記事を書くジャーナリストは、その点を配慮して自分のキャリアに傷がつかないように逃げ道を用意している。今回の記事の結びの中に次のような記述がある。

 

 『結局この問題について利用者が不信を抱く原因は、京成と北総の情報発信が不十分なことにある。今回、値下げ方針が示されたことで、劇的な値下げを期待する利用者も少なくないだろうが、これまで検証してきたように、過剰な期待は空振りに終わる可能性が高い。悲願の値下げがかえって「失望」を招くことすら考えられるが、さらなる値下げの可能性がないわけではない。累積損失解消と値下げがゴールではないし、利用者からそう思われるのも本意ではないはずだ。将来的な経営のビジョンを示すためにも、値下げを機に経営状況を含む抜本的な情報開示を求めたい。』 (注)以降『 』に囲われた部分は記事の引用

 

 北総鉄道の異様な情報開示

 

 確かに北総鉄道の最大の欠陥は情報開示であることは間違いない。決算時に北総鉄道のHPに開示される損益計算書と貸借対照表はその名に値しない代物で官報に掲載されるような簡易な決算報告とあまり変わらないレベルだ。鉄道運輸機構の債務の残高も支払利息もわからない。現預金残高すらわからない。

 

 決算から2~3年後に国交省から開示される鉄道統計年報の情報は集計し直さないと使えないだけでなく、集計目的が異なるので通常の損益計算書と貸借対照表から得られる情報のレベルに届かない。北総鉄道が線路使用料を支払っている千葉ニュータウン鉄道のデータを合わせて参照して推測する以外ない項目もある。

 

 同じ民鉄線事業で建設された東葉高速鉄道がHPで開示している決算情報と見比べてみるとその異様性がよく分かる。ただ、コロナの影響でJRでも赤字に陥っているのに減収減益ながら2社とも黒字を確保している。これは偶然ではなく、鉄道運輸機構からの元利均等償還の債務が影響していると思われる。前半の多額の支払利息を前提に設定された高額運賃と急激な支払利息の低減でコロナ禍でも利益の出る体質?になっている。

 

 🔗北総鉄道 2020決算

 

 🔗東葉高速鉄道 2020年度(第40期)決算について

 

 鉄道運輸機構の元利均等償還と急激な支払利息の減少

 

 元利均等償還方式では償還が進むにつれて支払利息が減り、元本の返済が増えていく。民鉄線事業で建設された路線はどこも開業後巨額の赤字を抱え、深刻な資金不足対策として償還期間を大幅に延長して毎回の償還額を減らしてきた。北総鉄道は25→45年間に延長し、東葉高速鉄道は実に25→66年間に延長している。各社は償還が進むに連れて増大していく元本の返済に備えて自治体からの無利子貸付や増資を受け入れて再建を図ってきた。

 

 しかし、北総鉄道だけは1999年を最後に現在まで一度も増資を実施していない。親会社の京成からの貸付で糊塗し、高額運賃と支払利息減により債務超過を解消している。増資を実施しないから資本不足のままの経営が続いている。高額運賃と支払利息の減少で多額の利益が出るが、返済元本の増加に対応した資本増強に真摯に対応しようとしていない。

 

 🔗北総鉄道の経営状況(財務状況、鉄道運輸機構の償還状況、資本費・資本金・出資状況の推移を含む)

 

 北総鉄道の黒字転換について筆者に対して行った北総鉄道側の説明は事実と異なる。1998年に運賃を値上げして2000年に黒字転換したのは運賃の値上げと鉄道運輸機構の債務の支払利息の急激な減少があったことは否定できない事実だ。

 

『北総鉄道企画室は「千葉ニュータウンが徐々に発展していくにつれて、当社の利用者も増加し、2000年度に黒字転換することができました」と説明するが、利用者の増加だけでなく、利用単価である運賃の値上げも黒字化に大きく寄与したと言えるだろう。』

 

 過大な支払利息の予測を基に申請された1998年の値上げ後、値上げによる増収効果と鉄道運輸機構の債務に占める支払利息の割合が劇的に減少したことで経営努力とは関係なく黒字に転換している。当時60億円を超えていた支払利息が現在は10分の1程度にまで縮小している思われる。正確な数字を北総鉄道は公表していないが、過去の実績から営業外費用の大半が支払利息だと推定できる。HPに公表されている損益計算書からは営業外費用すらわからない。

 

 値上げした1998年度の輸送人員を100とした場合、翌年の1999年度の指数は100.4、2000年度が103、2001年度でも103.5にすぎない。申請時の1日当たりの輸送人員見込みに至っては毎年、実績との乖離が広がり、値上げ申請時の査定期間である平年度(1999~2001)最終の2001年度の見込みと実績の差は実に△11,781人になっている。年間換算の輸送人員は△430万人にもなる。2001年度の運輸収入の見込みと実績の乖離も△14億円。いかに甘い見積だったかわかる。

 

 それでも1998年度を100とした2001年度の運輸収入は111.1に伸びている。よく見ると定期外輸送人員が伸びている一方で収益の柱の2001年度の定期輸送人員の指数は98.9となっており、値上げ前より定期利用者が減っている。

 

 輸送人員と運輸収入の見込みが大幅な未達なのに2000年度に黒字転換し、翌年度の税引き前当期利益は4倍の1,678百万円まで増えている。値上げと支払利息の減少がいかに収益の改善に効果があったかがわかる。

 

 🔗平成10年(1998年)北総鉄道の運賃値上げ

 

 値上げ申請時に償還予定表を見れば償還額に占める支払利息が将来的に大きく減少していくことは誰でもわかったはず。償還期間の途中で鉄道運輸機構の調達元本の借換えに伴う償還内訳の見直しがあるが、元利均等返済で支払利息が大きく減少する構造に変わりはない。償還額に占める元本の比率は1998年度に20.7%だったが、2011年度のには78.9%まで増加している。2012年度に作成された償還予定表によれば2021年度の比率は82.5%になっており、いずれにせよ償還額に占める元本の返済割合は8割を超えている。

 

 償還期間中の元利合計は変わらず、前半は支払利息が大きなウェートを占める。後半は支払利息のウェートが大幅に下がり、代わりに元本のウェートが大きく増大するのが元利均等返済の特徴だ。ただし、鉄道運輸機構への返済は事業者ごとに紐づけされた調達資金の一部の借換えが生じると償還額を再計算するしくみのため元利金の構成が変動する。(北総鉄道はこの点を捉えて鉄道運輸機構の債務を変動金利だと説明することがある。)これは鉄道運輸機構がリスクを負わずに管理費を含めた一切の経費を事業者から回収するために採られたしくみだ。毎回の償還額を減らすために行われたのが償還期間の延長だ。

 

 独立行政法人の鉄道運輸機構には国土交通省からの出向者もおり、国は償還状況を正確に把握していたはず。しかし、鉄道局の見解は運賃申請の査定は平年度(翌年度から3年間)ベースで行っているから適正だということになるのだろう。将来的に支払利息が大きく減少することを考慮するしくみになっていないという言い訳が聞こえて来そうだ。

 

 しかし、平年度(1999~2001)の支払利息は運賃申請時(1998)の見込みと実績で50億円近くも乖離している。でたらめと言っていいレベルだ。これは当時の支払利息の1年分に相当する金額だ。

 

 運賃申請の査定に使われているルールは法律ではなく、役所が作成したマニュアルにすぎない。運賃申請は結局、行政の裁量で行われているのが実態だ。役所の見解ではこの場合も適正に認可されたことになる。

 

 筆者は北総線の運賃は開業時から受益者負担により高く設定されていたとして高額運賃が必ずしも不当な運賃ではないとも指摘している。

 

 『実際、1979年に北総線が開業した時の初乗り運賃は110円。親会社である京成電鉄の同年の初乗り運賃は70円だから5割以上高かった。新線建設コストのうち、ある程度を利用者に負担してもらうという方針は当初からあったわけだ。』

 

 しかし、1990年代半ば以降のデフレ下で新鎌ヶ谷駅から1駅の西白井駅まで309円という運賃を沿線住民が容認できるわけもない。沿線住民は成田空港線の開業で運賃が下がることを前提に移り住んだ人も多い。

 

 交通利便性の低下により地価が下がり千葉ニュータウンから脱北できない多数の住民がいる。好きで移り住んだのだから自業自得だという批判は当たらない。もし、東葉高速鉄道の沿線の住民だったなら高額運賃も仕方がないと思えるかもしれない。それは東葉高速鉄道が十分な情報公開と真摯な経営改善努力を続けてきたという実績があるからだ。

 

 北総鉄道の経営は自社の利益だけを追求し、不透明なグループ間取引が行われ、情報開示はゼロに等しい。しかもそんな事業者を国と自治体が支えている。彼らの言い訳は上限運賃制では値下げは事業者の専決事項でおかしな点があるとしても北総鉄道にお願いする以外に手立てがないというものだ。せめて、東葉高速鉄道並みの情報開示を国は行政指導するべきだ。

 

 筆者は北総鉄道のキャッシュフローから北総線の大幅な値下げが難しいことを説明しているが、北総鉄道の経営本質を見逃している。千葉ニュータウン鉄道が公団線を買収した当時、北総鉄道には多額の余剰資金が存在していた。京成からの借入金を上回る120億円以上の余剰資金が消費寄託金として親会社の京成に預託されていた。

 

 🔗北総鉄道の消費寄託金

 

 資本金10百万円の登記だけのペーパーカンパニーである千葉ニュータウン鉄道(以降、CNTと表記)がなぜ、150億円もの鉄道資産を購入できたのかという分析が脱落している。買収資金は全額が京成からのCNTへの貸付で賄われている。北総鉄道への貸付金を消費寄託金という形で京成が吸い上げ、その資金がCNTの公団線の買収に使われたように見える。消費寄託金には使途の制限はない。銀行の預金も消費寄託金の一種だ。

 

 かつて銀行は歩積み両建てという慣行により企業に貸し付けていた資金の何割かを預金として拘束していた。資金不足のはずの北総鉄道の余剰資金も京成の貸付金が消費寄託金として京成に還流していたと考えられる。いわゆる、見せ金のように見える。

 

 北総鉄道の当時の経営企画室の人間は北総鉄道が公団線を買収するスキームも検討したことを認めている。もし、北総鉄道が公団線を買収していたら黒字計上の時期が1年程度ずれ込んだかもしれないが、今とは全く異なる状況になっていたはずだ。減価償却費の増加により法人税の支払いが減少してキャシュフローが大幅に改善していたはずだ。

 

 もし北総鉄道が公団線を買収していたらCNTに対する一切の支払いが発生しなかった。線路使用料(実際は公団線時代の「負担金」)、印旛車両基地の使用料、車両賃貸料の支払いが不要になり、高砂から印旛日医大までの線路使用料を京成からもらうだけのシンプルな取引になっていたはずだ。そして十分な情報公開をして成田空港線の採算を考慮した2社にメリットのある線路使用料を設定していたら値下げ裁判も提起されていなかったかもしれない。

 

 利用者の交通利便性の向上に資していると主張するアクセス特急については北総鉄道が自ら特急と急行を走らせばいい。北総線の利用者でアクセス特急に乗って成田まで行く人間はあまりいないはずだ。アクセス特急の実態はスカイライナーを補完する運賃の安い成田空港線に他ならない。アクセス特急が停車しない駅の利用者は途中駅での乗換とアクセス特急とスカイライナーの通過待ちを強いられており、必ずしも速達性は改善していない。

 

 スカイライナーは線路使用料を払っていない

 

 そして、スカイライナーのただ乗りを隠蔽するために編み出されたのがアクセス特急との運賃収入配分だ。スカイライナーの線路使用料問題とアクセス特急の運賃収入配分はまったく無関係だ。

 

 🔗線路使用料と運賃収入配分

 

 筆者は14日配信の記事で『現時点での線路使用料の算定に関しては、後述するようにそうした設備(第2期線開業から2010年の成田空港アクセス線開業までの約20年間、有効活用されなかった「過剰設備」)も含めた固定資産を元に算出されており、決して京成が「タダ乗り」しているわけではない。』と主張しているが、北総線の線路及びCNT区間をノンストップで走るスカイライナーが一円も線路使用料を負担していない事実には言及していない。

 

 国はスカイライナーのただ乗りについて成田空港線の上限運賃申請の運輸審議会で以下のような説明を行っている。

 

 (審議委員からの質問)スカイライナーの運賃・料金は全て京成電鉄の収入になるのだから、その運行本数が増えても北総鉄道の増収にはつながらないのではないか。

  

 (国土交通省の回答)スカイライナーの収入の取り扱いについてはご指摘の通りであるが、京成電鉄一般特急(アクセス特急のこと)の運行により北総線区間から成田空港線方面への鉄道利用者が増加すれば、北総鉄道の増収につながる。また、京成電鉄は自社の純増収入の一部を北総線運賃値下げの原資とするため線路使用料の一部として北総鉄道に拠出すると聞いている。

 

 そもそも線路使用料については決められたルールはなく、線路使用料が当時者間の合意で決められるのが前提だと説明したのは鉄道局だ。

 

 そうだとすると『(他路線の)こうした事例と照らし合わせると、京成が北総に支払う線路使用料は不当とまでは言えないだろう。結局、現在の仕組みの元では、北総が得られる線路使用料を増やすことは困難と言わざるをえない。』という他路線との比較に基づく筆者の結論は意味がないことになる。

 

 北総鉄道と公団の契約に基づく線路使用料のしくみは北総鉄道の経営に影響を与えないという趣旨で公団が北総鉄道から運賃全額を回収し、その中から公団が鉄道の運行経費の実費を負担金という名目で北総鉄道に戻すというものだ。そして線路使用料以外に北総鉄道が負担している車庫使用料は公団線時代には支払われていなかった。

 

 けれど、CNTが公団線を買収した途端に履行が保留されていた契約に基づいて車庫使用料の支払いが開始されるという不思議な現象が起きている。車庫も車両も一体で買収され、本来、線路使用料の元になる鉄道資産の中に含まれている資産だ。つまり、線路使用料とは別に車庫使用料と車両使用を北総鉄道が支払う義務があるのだろうかという疑問が湧く。車庫使用料の支払いも公団の累積赤字が前提になっていた。

 

 さらに運行経費の実費しかもらっていない北総鉄道が線路使用料(負担金)とは別に車庫使用料と車両使用料を支払えば小室から印旛日医大までの区間が赤字の計算になる。北総鉄道の経営にりっぱに!影響を与えているのではないだろうか。CNT区間が黒字でその中から車庫使用料を払うなら多少は筋が通るが、契約の趣旨が吹っ飛ばされて契約が履行されている。

 

 CNTの累積赤字は本当か

 

 しかし、そもそも北総鉄道もCNTも京成と一体化した京成グループ企業であり、実態は3社間の取引はグループ内の循環取引にすぎない。経営権を京成が握っているという点に最大の問題がある。値下げ問題以前に不公平な取引を防止するために鉄道事業者に人的・資本的な規制をかける必要があるのではないだろうか。

 

 CNTは京成の100%連結子会社だから京成の連結決算ではCNTの赤字は京成のCNTからの収入で相殺されているのではないのか。CNTの支払利息は京成の利息収入として計上されており、支払利息以外にも中身のわからない運送営業費の支出があり、それが京成への支払なら連結ベースで大幅な黒字になっているのではないだろうか。

 

 🔗千葉ニュータウン鉄道の財務状況等

 

 ちなみに、CNTが開業した2004年度から2011年度まで8年間で支払利息と思われる営業外費用だけでも2,711百万円が計上されている。さらに同じ期間に北総鉄道に払っている負担金以外の経費が運送営業費に計上されている。CNTと同じ第三種鉄道事業者の🔗成田空港高速鉄道にはそもそも運送営業費の計上がない。京成がCNTに貸付けている資金の金利コストはわからないが、連結ベースでの赤字を京成が容認しているとは到底思えない。

 

 そして、国交省の天下りが役所とのパイプ役なっている構造を変えない限り何も変わらない。政府と官庁が公平で公正な行政を目指さない限り、問題は解決しないだろう。選挙のときだけの言いっぱなしの議員に投票するのをやめるべきだ。

 

 筆者の指摘は単なる現状の結果分析にすぎない

 

 『一方、現在の2012年から2035年度までの償還計画では、毎年約30億円を返済する計算だ。北総鉄道企画室によると年間設備投資額は非公表だが、減価償却の範囲内で設備投資を行っているとすれば最大で25億円程度(規模の近い東葉高速鉄道が約10億円なので、実際はそこまでいかないだろう)だ。その他、京成や千葉県、UR都市機構からの長期借入金や長期未払金(リース債務)の返済を考慮すると、手元に残る資金はほとんどない。仮にフリーキャッシュフロー10億円を確保したとして、これを原資に利用者に還元する場合でも営業収益約177億円に対して約5.6%、つまり初乗り運賃210円を200円に下げる程度の値下げにしかならない。』

 

 『大幅な値下げは難しい?~さらなる値下げが実現するとなれば第2期線の償還が完了する2035年以降になるが、その頃には開業から40年以上が経過し、施設の大規模な修繕が必要になってくるうえ、人口減少により営業収入も減ってくるため、結局のところ大幅な値下げは難しそうだ。北総線の運賃問題を解決する手立てがあるとすれば、利益を増やすか、支出を減らすしかない。関連事業を展開していない北総が利益を増やすには鉄道事業の売上高を増やす必要があるが、2014年3月をもって千葉ニュータウンの新規開発は終了しており、沿線人口の劇的な増加は望めない。』

 

 筆者の分析は北総鉄道のこれまでの言い分をなぞるような内容だ。本当にやる気になればいろいろな方法が考えられる。例えば、鉄道運輸機構の債務の償還期間をさらに延長して年間の返済額と設備投資を減価償却費の範囲内に収め、適正利益を決めて値下げを実行することで法人税等の社外流出を抑制しながら将来のための内部留保を増やす方法も考えられる。その場合でも将来に備えた資本増強は不可欠だろう。

 

 🔗北総鉄道の反論

 

 京成からの長期借入金の実態は資本不足を増資で対応したくないための方便のように見える。借入金は余剰資金として消費寄託金の形で京成に回収されており、見せ金のようにも見える。県の貸付については元々、無利子貸付だったもので東葉高速鉄道では無利子貸付の出資への振替が実行されている。おそらく、京成が望めば出資への振替が可能だったはずだ。

 

 北総鉄道が千葉ニュータウン鉄道の鉄道資産を買収するのがベスト

 

 北総鉄道は消費寄託金を京成から回収して京成の貸付を返済するべきだ。その上で北総鉄道は不足する資金を県と5市からの無利子貸付と増資で調達してペーパーカンパニーにすぎないCNTを買収するべきだ。買収により線路使用料、車庫使用料、車両賃貸料の支払がなくなり、アクセス特急との運賃収入配分も解消できる。京成からの線路使用料収入も増えることになり、収支は大幅に改善するはずだ。

 

 京成はCNTに投じた資金を回収できるかもしれないが、これは京成にとってはおそらく最も嫌う選択だろう。だから、ペーパーカンパニーのCNT使って買収したと考えられる。京成が第一種種鉄道事業者にならずに公団線時代のスキームを引き継ぐための方便として赤字の第三種鉄道事業者が必要だったのだろう。こんなでたらめに加担するのが日本の“優秀な官僚”なのだ。

 

 通産省(現経産省)はかつて行政指導で大企業をコントロールしていたが、それは遠い昔の話で30年以上前から大企業は役所の行政指導に従わなくなっている。彼らは規制緩和だけをビジネスチャンスとして求め、官庁は見返りに天下りを既得権化している。鉄道の上限運賃制も結局、事業者の既得権になってしまっている。規制緩和は決して万能ではなく、結果は新しい既得権を生みだし、単なる既得権者の交代で終わっているように思える。

 

 北総鉄道がCNTを買収すれば成田空港線の収支が成り立たなくなるかもしれない。大切な収益源の北総鉄道の経営にタガがはめられることを京成が拒否するのは確実だ。過去に北総鉄道補助金の違法専決処分裁判で有名になった元白井市長が補助金の代わりに北総鉄道への出資を提案したことがあったが、頑なにこれを京成側は拒否した経緯がある。補助金は資本不足の解決には何の役にも立たず、税金を溝に捨てるようなものだ。

 

 国は京成が成田空港線事業から撤退されたら困るという事情があったのではないだろうか。当時の成田空港線の鉄道建設は成田空港アクセスの時間短縮を目指した国の重要な政策であり、京成にへそを曲げられたくないためにこんなおかしなスキームに国が加担したのではないだろうか。成田空港線を認可したときの国土交通大臣は当時の民主党の前原氏だったから政権交代に関係なく、官僚がすべてをコントロールしていたのだろう。

 

 民鉄線事業の失敗の反省から都市鉄道整備事業により建設された鉄道がつくばエキスプレスだ。建設資金は国(都市鉄道整備事業)と自治体からの無利子貸付80%(各40%)と自治体からの出資14%で大半が賄われている。その点を考えると北総鉄道の資本不足を解決する方法として県と市からの無利子貸付と増資という案は決して非現実的なものでないと考えられる。

 

 ちなみに、つくばエキスプレス(運営会社:首都圏新都市鉄道株式会社)でも2020年度の決算は79億円の赤字に転落している。その点を考えるとコロナ禍の北総鉄道の黒字計上がいかに不自然なものかわかる。コロナで北総鉄道の正体が露見したのではないだろうか。

 

 🔗つくばエキスプレス(運営会社:首都圏新都市鉄道株式会社)の2020年度決算

 

 

つくばエキスプレス建設事業にかかる資金調達方法(有価証券報告書より)
つくばエキスプレス建設事業にかかる資金調達方法(有価証券報告書より)

京成は第二種鉄道事業者ではなく、第一種鉄道事業者だ!

 

『問題をややこしくしているのが京成と北総、CNTでそれぞれ交わされた契約の違いだ。CNTは自ら列車の運行はせず、保有する設備を他の事業者に使用させる「第三種鉄道事業者」である。一方、小室―印旛日本医大間における京成と北総は、CNTの設備を利用して列車を運行する「第二種鉄道事業者」となる。』と筆者は書いているが、CNTと京成が一体だということには何も触れていない。CNTは独立した鉄道事業者と言えない。

 

 そもそもCNT所有の区間については京成が第二種鉄道事業者とは言えないのではないかという疑問だ。鉄道事業法第二六条(事業の譲渡及び譲受等)の第7項には「鉄道事業の譲渡を受けた者又は合併法人等が同一の路線について第二種鉄道事業の許可及び第三種鉄道事業の許可を取得することとなったときは、当該路線に係るこれらの許可は失効し、当該路線について第一種鉄道事業の許可を受けたものとみなす。」という規定が存在する。

 

 CNTは実態のない京成のペーパーカンパニーであり、CNT=京成なのだから上記の規定からすれば現在のCNT区間は京成が第一種鉄道事業者(第二種鉄道事業+第三種鉄道事業)となると考えられる。ペーパーカンパニーを設立して第一種鉄道事業者になることを回避するのは脱法行為に当たるはずだ。しかし、鉄道局はこれもペーパーカンパニーが第三種鉄道事業者になれないという規定はないと反論することだろう。北総線の値下げ裁判の国の論法はすべてこの類だった。

 

 公団線時代の契約条件を引き継ぎたい京成のために考え出されたのがペーパーカンパニー方式による公団線買収だったのではないだろうか。京成は成田空港高速鉄道のような金のかかる第三種鉄道事業者を設立する代わりに過小資本のペーパーカンパニーを設立したと考えられる。

 

 資本金10百万円の法人であれば、官報への簡単な情報開示でだけで済み、内実を知られることがないと考えても不思議ではない。おそらく、CNTの代表者に国交省の天下りが選ばれたのは鉄道局に対する踏み絵と考えられ、CNTが鉄道局容認のスキームだったことを裏付けている。CNTがペーパーカンパニーであることが判明したのは偶然にすぎず、もしかすると実態が不明のままだった可能性がある。

 

 筆者は以下のような北総鉄道がCNTに払う線路使用料が公団線の買収で引き継いだ契約に基づくものだという京成や鉄道局の説明をなぞるような解説を行い、深く調査した気配がない。あるいは敢えて深入りせずに素通りしたのだろうか。なぜ、公団から一切の債務を引き継いでいないCNTが「累積損失が解消するまでCNT区間の運賃収入相当額を線路使用料」とする契約を継承できるのか疑問に思わないのだろうか。債権債務をすべて継承した事業継承なら理解できるが、都合のいい解釈により権利だけを継承するのは虫がよすぎるように思う。鉄道局は「公団の地位をCNTが継承」したと説明しているが、権利だけ承継する地位の継承というのは一般的な法解釈上あり得ないはずだ。見ざる聞かざる言わざるだとしたら調査報道とは言えない。

 

 『一方、北総がCNTに支払う線路使用料はこの原則とは異なっている。北総はCNT設立以前に小室―印旛日本医大間を保有していた住宅・都市整備公団との間に、CNTの累積損失が解消するまでCNT区間の運賃収入相当額を線路使用料として支払う契約を締結しており、CNTもこの契約を引き継いでいる。その結果、京成がCNTに支払う線路使用料が約3億円なのに対し、北総のそれは約25億円と大きな差が生じている。』

 

 住宅・都市整備公団は清算されて累積債務は譲渡時に解消されている。買収前からCNTが赤字になることを前提にして契約を引き継いだことになる。普通、設立1年で債務超過になるような会社に国が国有財産を売却するようなことがあるだろうか。事業前から累積赤字が発生するスキームを国が承認していいものだろうか。

 

 しかも、CNTはほぼ自己資本なしで借金だけで公団線を買収している。悪徳不動産会社が買い手の資力を無視して融資を斡旋して高額不動産を購入させたような構図だ。しかし、鉄道局は実際の購入者が京成だったから格安で(千葉県は買収時に43億円の補助金を交付している。)売却したのではないだろうか。鉄道局は適正な審査の元に売却したと主張できるのだろうか。

 

 筆者の理解不足の露呈か、それとも結論ありきの短絡なのか

 

『ただ、この数字(京成がCNTに支払う線路使用料が約3億円なのに対し、北総鉄道の支払う使用料約25億円であること)のみを比較して不公平というのは早計だ。京成が利用するCNTの駅はアクセス特急の停車駅に限られているうえ、CNTが保有する印旛車両基地は北総のみが使用するなど、京成と北総では設備の利用範囲が異なるからだ。また、CNT線内における北総の列車運行により発生するコストはCNTが負担することとされており、CNTから北総への支払いもあるため、京成と北総の線路使用料の違いについては単純に比較できないのである。』

 

 上記の記述については明らかに間違っており、鉄道ジャーナリストの分析としてはとんちんかんとしか言いようがない。『京成が利用するCNTの駅はアクセス特急の停車駅に限られている』と書いているが、駅だけでなく線路を借りて走っているから線路使用料というのではないのだろうか。鉄道ジャーナリストの筆者がこんな基本的なことを理解していないとは到底思えない。

 

 CNTが支払う負担金(鉄道の運行経費の実費)を『CNT線内における北総の列車運行により発生するコストはCNTが負担することとされており、CNTから北総への支払いもあるため』と記述しているなら、勘違いの域を超えて筆者が北総鉄道の線路使用料のしくみをまったく理解していないことを露呈しているようなものだ。運賃を総取りされているのだから実際にかかった運行経費をCNTから返してもらうのは当たり前のことだ。そうでなければ、北総鉄道が小室から先の運行をする意味がない。筆者が誤解しているのでなければ公団からCNTが引き継いだ契約の中身を調べていないか、あるいは知らなかったことにして論理を組み立てているのだろうか。

 

  ただ、筆者が「京成と北総の線路使用料の違いについては単純に比較できないのである。」という指摘はその通りだ。しかし、単純に比較できないのは京成側がきちんと情報開示しないからだ。CNTの線路使用料は鉄道統計年報では鉄道路線収入という項目で表示されている。

 

 この鉄道路線収入の中に北総鉄道からの線路使用料と印旛車両基地の車庫使用料(2024年度まで)、京成からの線路使用料、鉄道路線収入から上記3項目を控除した差額の不明収入(北総鉄道からの車両賃貸料?)が含まれている。これらの内訳は様々な公表情報と非公表情報を入手しないと外部からは一切わからない。京成の支払う線路使用料も追加で払われる線路使用料があり、年度によって異なっている。

 

 CNTが北総鉄道に支払っている負担金は鉄道統計年報では運送営業費の経費という項目の中に含まれているが、この経費の中にも負担金以外の不明支出が含まれている。2007年度にはこの不明支出が254百万円も計上されている。

 

 筆者は極めて不正確であいまいな情報から憶測で記事を書いているのに「公開情報や情報公開請求などで得られる情報で、その実態をおおよそ把握することができた。その中には北総にとって決して不利ではない情報もあった。」という強引な結論を導き出している。

 

 🔗千葉ニュータウン鉄道の財務状況等(CNTの線路使用料についての運輸審議会での鉄道局の説明を含む)

 

 また、『CNTが保有する印旛車両基地は北総のみが使用する』と書いているが、北総鉄道が線路使用料の他に車庫使用料を負担していることを知らないのだろうか。そもそも公団から引き継いだ契約には「鉄道施設及び車両の使用」と書かれており、買収した鉄道施設には印旛車両基地も含まれているはずだ。しかし、北総鉄道と公団が別途交わした車庫使用料の覚書を根拠に車庫使用料が支払われている。

 

 北総鉄道と公団が交わした契約を都合よく適用しているのが、北総鉄道、CNT、京成の3社で交わした協定だ。しかし、実態は外部から見えない京成グループ内の循環取引にすぎない。

 

 CNTの赤字が作られたものだということを理解していれば次のような記述にはなり得ない。CNTと京成の数字を合算した連結ベースの数字を入手して分析した上でCNTが本当に累積赤字を抱えていると言えるのか確認してほしい。不十分な取材で結論に結び付けており、結論ありきで書かれた記事のように私は感じる。

 

 『ちなみに2008年度に約21億円だったCNTの累積損失は2018年度に約14億円まで減少したが、その後再び赤字が拡大して2020年度は約17億円となり、解消のメドは立っていない。CNTの累積損失が解消されれば、線路使用料の減額分を値下げの原資とすることも可能だが、当面は実現困難だろう。』

 

 CNTの2020年度の数字はどうやって入手したのだろうか。公開資料としては官報に掲載されるわずかな情報しか現時点では入手できない。国土交通省のHPに掲載されている鉄道統計年報は平成30年度(2018年度)までしか公表されていない。官報以上の詳しい数字は鉄道局に公開請求する以外にない。筆者はそこまで調査したのだろうか。累積赤字だけの数字は意味がない。

 

 『こうした事例と照らし合わせると、京成が北総に支払う線路使用料は不当とまでは言えないだろう。結局、現在の仕組みの元では、北総が得られる線路使用料を増やすことは困難と言わざるをえない。』

 

 『本稿執筆にあたっては北総に取材を申し込んだが、鉄道・運輸機構に支払う償還額や線路使用料など、ほとんどの項目について「ご質問の内容には弊社相手先および関係先に係る事項も多々あり、お答えすることが出来ない設問が含まれて」いるとして回答を得られなかった。だが、これまで記してきたとおり、公開情報や情報公開請求などで得られる情報で、その実態をおおよそ把握することができた。その中には北総にとって決して不利ではない情報もあった。』

 

 繰り返しになるが、どうして不十分な取材を認めながら筆者が「これまで記してきたとおり、公開情報や情報公開請求などで得られる情報で、その実態をおおよそ把握することができた。その中には北総にとって決して不利ではない情報もあった。」と結論づけられるのだろうか。これでは北総鉄道のいいとこ探しのために書かれた記事のようにさえ見える。この記事は筆者が企画したメディアへの持ち込み記事ではなく、おそらく世間からバッシングされている北総鉄道にもいろいろと事情があることを伝える記事を書くことをメディアから依頼されたのではないだろうか。

 

 私も北総鉄道の大幅な値下げには懐疑的だ。北総鉄道は「運賃値下げの可能性の検討に着手する」と発表しているだけで熊谷俊人千葉県知事に対して「通学定期運賃の大幅な値下げ、北総線内の移動の促進に資する普通運賃の値下げ」を実施する方向だと報告したことが千葉県議会で公表されたにすぎない。

 

 大幅な値下げがあるとしてもダメージの少ない通学定期の値下げが中心になる可能性が高い。通学利用者は少子化で今後、減っていくだろうから値下げによる経営への影響は少ないと考えられる。その場合でも補助金が前提になる可能性がある。政治家の選挙対策の臭いがする。鼻先に人参をぶら下げられた有権者はどういう投票行動をとるのだろうか。一番、はしゃいでいるのは選挙を前にした政治家なのではないだろうか。まるで自分の手柄のように吹聴している政治家がいる。所詮、選挙の材料なのだろう。今回の記事はマッチポンプのお手伝いをしている可能性がある。

 

 筆者は記事の前書きで『それほど高額な運賃を取るのだから大赤字なのかと思いきや、実は北総線は首都圏でも有数の「儲かっている」路線である。コロナ前の2019年度決算では売上高約177億円に対し、営業利益約42億円、純利益約26億円。コロナ禍によりJR各社、大手私鉄が軒並み赤字に転落した2020年度決算でも、売上高は前年度比24%減の約134億円ながら、営業利益約22億円、純利益約13億円と、しっかり黒字をキープしているのだから驚きだ。』と書いている。

 

 鉄道運輸機構の民鉄線として25年元利均等償還で鉄道を建設した鉄道事業者はみんな大赤字に陥っている。そして、大赤字を理由に初期に高額の運賃設定が可能だったとも言える。元々、返済が進めば利息負担が急激に減ることを前提にした鉄道建設だったのだろう。野放図な採算度外視の高規格の鉄道建設のツケを受益者負担で解消する制度だったことがわかる。

 

 しかし、後半の元本返済に備えた資本増強もせず、巨額の債務残高を理由に高額運賃を維持してきた北総鉄道の支援を沿線住民はいつまで強いられるのだろうか。コロナの影響もあるが、私はたまにしか北総線を利用していない。だから、正直、運賃の値下げなど期待などしていない。それより北総鉄道への無駄な税金の投入を止めてほしい。利益が出ている企業に補助金を出すのは支払った法人税をキャシューバックするようなものだ。

 

 これまで運賃の値下げを懸命に否定してきた事業者が突如として正反対の情報を発信しているが、本気で北総線の大幅値下げを信じている沿線住民がどれだけいるだろうか。選挙材料にしたい政治家のパフォーマンスにはほとほとうんざりしている。もうすぐ選挙結果が出る。来年の秋ごろに北総鉄道が実施する値下げとそのときの政治家の説明はどうなっていることだろうか。

 


 他にも次のような北総線の値下げをテーマにした記事がある。値下げが難しいという結論は同じだが、事業者を擁護するような内容ではない。記事の中で筆者は運賃を大幅に値下げする方法として3つを挙げている。

 

 🔗“日本一高い”北総鉄道は値下げできるのか「やはり難しい」これだけの理由

 

 『北総鉄道を大幅に値下げする方法は3つある。1つは上下分離方式を解消し、北総鉄道の売り上げについて、京成電鉄との案文を解消する。これで北総鉄道の収益が増える。2つめは北総鉄道を完全な第三種鉄道事業とし、営業面は京成電鉄にすべて譲渡して、全線を京成電鉄とする。料金体系も京成電鉄のルールにする。北総鉄道は施設管理会社だから利益は出ない。しかしその場合、旧北総鉄道区間の運賃、都心との運賃は劇的に下がる。3つめは北総鉄道を解散し、施設をすべて京成電鉄に譲渡する。これで京成電鉄の運賃体系になる。そこまでしないと、いままで高額運賃を我慢してきた人、高額運賃ゆえに通勤費が支給されずバスでほかの路線を使うルートになってしまった人などは納得しないと思う。』

 

 しかし、問題の本質は京成がリスクを取らずに北総線の高額運賃を自社の利益のために維持したいというところにあり、法律上、値下げの決定権は北総鉄道(というより京成)が握っている。

 

 1つ目の「上下分離方式を解消し、北総鉄道の売り上げについて、京成電鉄との案文を解消する」という方法はあり得ないだろう。もともとスカイライナーの線路使用料を糊塗するためにわざわざ考えられた複雑な収入配分だから京成が応じるはずがない。

 

 2つ目の「北総鉄道を完全な第三種鉄道事業とし、営業面は京成電鉄にすべて譲渡して、全線を京成電鉄とする」という方法は鉄道運輸機構への償還を線路使用料のみで対応しなければならなくなる。その線路使用料には組織の人件費や経費が加算されることになり、コストに厳しい京成は嫌うだろう。そして、北総鉄道は国交省やUR等の官庁だけでなく、京成グループの人材の受け皿会社になっているだろうからポストが減るような方法を京成は選択しないだろう。

 

 3つ目の「北総鉄道を解散し、施設をすべて京成電鉄に譲渡する」という方法は2つ目と同じで人材の受け皿会社が減ることになる。そしてリスクを負わない、できるだけ資金を出したくない京成には受け入れられない方法でもある。もし、それが可能だったらとうの昔に実行されていただろう。経営の自由度が高まりそうにも見えるが、開示できないもしくは開示したくない情報を有価証券報告書に掲載しなければならなくなり、株主による経営監視で反って経営自由度が狭まる可能性がある。これまで入手した情報の中には京成が上場会社だからこそ入手できた情報もある。

 

 筆者も『「高額運賃で悪名高い北総鉄道がついに値下げ」「膨大な建設費を返し終わった」と報じられて「よかったよかった」と言いたいところだけど、そんな単純な話ではない。残念ながら、値下げされたとしても相場より高い運賃が続き、期待は「ぬか喜び」になるかもしれない。』と予想している。

 

 以上の二つの記事の筆者と私の予想は中身はともかくハッピーエンドで北総線問題が終わらないという点で同じだ。