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北総線の本当の初乗り運賃~東急電鉄の値上げと西白井駅の運賃

 

 先日、東急電鉄が値上げをするという記事に目が止まった。目が止まったのは値上げ自体ではなく、値上げ後の渋谷から横浜までの運賃が309円だという金額だ。西白井から1駅の新鎌ヶ谷までの現行運賃と同額だという事実に今更ながら北総線の運賃の高さを思い知らされたような気がした。

 

 渋谷⇔横浜(24.2㎞)とその八分の一の距離の新鎌ヶ谷⇔西白井(3.1㎞)の運賃が同額という現実は格差と呼ぶにふさわしい。富裕層が多く生活する沿線の方が鉄道運賃が安い。やはり、この地区は交通利便性においてはいつまで経っても僻地の域を脱せていないのだろう。

渋谷⇔横浜の運賃と距離
渋谷⇔横浜の運賃と距離
新鎌ヶ谷⇔西白井の運賃と距離
新鎌ヶ谷⇔西白井の運賃と距離

 だから地域独占事業者が潤うのだろう。今回のコロナ禍で東急電鉄も大打撃を受け、運賃の値上げはコロナへの対応からテレワークが拡がったことで重要な収益源の通勤定期利用者が以前の水準まで回復しないだろうという会社の判断が背景にあるという。京成も含めた鉄道事業者全体が営業赤字の中で利用者数の劣る北総鉄道は利益を確保し続けている。利用者が増えなくても利益が出るほど損益分岐点が異様に低いためなのだろう。経営努力は必要ない。支えは天下りの見返りによる国土交通省の配慮なのだろう。

 

 北総鉄道のコロナ禍での値下げを英断と言えるのだろうか。コロナでいみじくも過剰利益体質が露呈して値下げに追い込まれたのではないだろうか。過大な長期債務を理由につい最近まで補助金なしの値下げはあり得ないと強硬に主張していた。そして、値下げできない理由に将来的な少子高齢化問題も上げていた。これらの問題はどうなったのだろうか。

 

 東急電鉄は値上げに値するだけの環境を沿線住民に提供し続けている。スカイライナーが猛スピードで通過する北総線の沿線駅にはホームドアは1駅も設置されていない。安全より利益を優先する事業者とどうやって共存して行くのだろうか。もう選挙のことだけしか頭にない政治家には頼れない。

 

 🔗2023年3月の実施に向けて鉄軌道旅客運賃の改定を申請~安全・安心にご利用いただける鉄道事業を継続し、公共交通としての社会的責任を果たしていきます~東急電鉄株式会社

 

  🔗東急電鉄、値上げ最大の理由は? 落とせないサービス、「選ばれる沿線」を維持するために~ネットで東急電鉄値上げの反応を見ると、いままでが安すぎたという反応も多く、運賃が高いのにさらに、という反応は見当たらなかった。北総鉄道の運賃が高くて非難され、値下げの話が出てきて「やっとか」という扱いをされるのを見ると、大違いだ。…東急電鉄は、利用者の安全性・快適性のために、大きく投資をしてきた。2019年には東横線・田園都市線・大井町線の全64駅にホームドアを設置し、現在では世田谷線・こどもの国線を除く全駅にホームドアもしくはセンサー付固定式ホーム柵を設置した。ホームからの転落は激減した。防犯カメラの設置を全車両で2020年には完備している。

 

 今年10月に新鎌ヶ谷⇔西白井間の運賃は309円から30円下がって279円になる予定だ。値下げ後でも渋谷⇔横浜の現行運賃272円より高い。たった30円の値下げに20年以上の値下げ運動が展開されたのだから沿線住民の忍耐力には頭が下がる思いだ。通学定期が64.7%下がることで街づくりへの影響と波及効果に期待するというチラシが最近投函されて困惑している。

 

  新鎌ヶ谷⇔西白井間の営業キロは3.1㎞だが、現行運賃で比較すると東急電鉄なら309円あれば30㎞先の駅まで行くことができる。運賃/㎞は北総線が約100円、東急電鉄が10円の計算になる。新鎌ヶ谷⇔西白井間の運賃が異常に高いことがわかる。もし、新鎌ヶ谷⇔西白井間の営業キロが3㎞以内で初乗り運賃の203円が適用されていれば運賃/㎞は70円以下だったはずだ。

東急電鉄の運賃改定
東急電鉄の運賃改定
北総線の運賃改定
北総線の運賃改定

 ところで東急電鉄の値上げの記事をきっかけに妙なことに気が付いた。北総線の運賃はメタボ運賃と言われて久しいが、メタボというより特定の区間を狙い撃ちしたような運賃だということに気が付いた。

 

 北総線の初乗り運賃の1~3㎞だけを見ると一見それ程高く見えないかもしれない。しかし、次の4~5㎞の区間は初乗り運賃の5割増しになっている。他にも運賃に使用される営業キロ数にからくりがありそうだ。

 

 運賃に使う営業キロは1kmに満たない端数は1キロに切り上げられる。これは、1キロ未満の区間だけを考えれば、一見合理性があるように思える。もし四捨五入にしたら、500m未満の区間の営業キロが0㎞になってしまうのでやむを得ないルールだと。しかし、1㎞を超える場合は四捨五入にする方が事業者と利用者の双方にとって公平だろう。1.1㎞と2㎞が同じ運賃だと言われて納得できるのは事業者側のサイドに立つ人間だけだろう。

 

 今回、一つ前の営業キロ区間との金額差(以下「上昇額」と呼ぶ)と上昇率を比較するためにExcelで表を作成してみた。その結果、初乗り運賃区間(1~3㎞)の次の区間(4~5㎞)が5割増しに設定されていることに気が付いた。他の区間の上昇率はほぼ20%以下なのでその異様さがわかる。つまりこの区間でベースが底上げされていることになる。この区間の上昇率を適正な水準にすることが先決だろう。 

 

 ちなみに、2区間目を東急電鉄と同じ4キロ刻みにしたら、上昇率は現行で85%増しになる。改定後でも75%増しだ。東急電鉄の改定後の2区間目(上げ幅23円)の上昇率の2.6倍になる。北総線の10月からの改定では初乗り区間と最終区間を除けば最も下げ幅が少ないのもこの2区間目(下げ幅30円)だ。

 

北総線の2022年10月の運賃改定はここが問題
北総線の2022年10月の運賃改定はここが問題
東急鉄道の2023年3月の運賃改定
東急鉄道の2023年3月の運賃改定

 一般的に1駅の運賃と言われたときに普通の人は初乗り運賃を思い浮かべると思う。だから、実態を知らない人が初乗り運賃だけを見たら世間で言われている程、北総線って運賃が高くないのではと感じるかもしれない。最初の1駅が309円の電車に乗ったことのない人と沿線住民との間に埋められない大きな意識の断絶がある可能性がある。

 

 西白井駅は千葉ニュータウン地区の入口にあり、千葉ニュータウンを訪れる人は必ず通過しなければならない駅だ。初乗り運賃では千葉ニュータウン内のどこへも行けない。つまり、千葉ニュータウン地区の本当の初乗り運賃は203円(10月から188円)ではなく、309円(10月から279円)ということになる。千葉ニュータウン地区の入場料が高すぎるのだ。裏の目的が成田空港へのアクセス問題の改善だったとしても北総線は元々、千葉ニュータウン地区の開発が目的の鉄道だったことを忘れないでほしい。北総鉄道の設立時の会社名は北総開発鉄道だった。

 

 そして、今回、別の事実に気が付いた。新鎌ヶ谷駅から千葉ニュータウン駅までのすべての駅が100mオーバーでワンランク上の区間の運賃が適用されていることだ。新鎌ヶ谷駅からの時刻表の距離は西白井駅3.1㎞、白井駅5.1㎞、小室駅7.1㎞、千葉ニュータウン中央駅11.1㎞といずれも0.1㎞の端数が付いているために運賃営業キロは切り上げでワンランク上になっている。

 

新鎌ヶ谷駅から各駅までの営業キロ数
新鎌ヶ谷駅から各駅までの営業キロ数

 初乗り運賃区間は3㎞までだが、次の4区間は2㎞刻みになっており、ちょうど新鎌ヶ谷駅から千葉ニュータウン中央駅までの区間だ。鉄道建設の設計段階からこうした区間設定が想定されていたのだろうか。

 

 改定後も歪んだ運賃設定は何も変わっていない。平均上昇額と平均上昇率が改定前と改定後でほとんど変わっていない。おそらく、今回の値下げは値下げ原資を決めてそこから通学定期の値下げ分を引いた残りを従来と同じ割合で配分しただけの代物なのだろう。北総鉄道のやる気?が感じられる。

 

 本当に北総線は不可解な路線だ。最近、発覚した「建設工事受注動態統計」の書き換え問題で国土交通省は検証委員会に「隠蔽と評価してもおかしくない」と指摘されている。鉄道局の作成している鉄道統計年報も当てにならない。事業者や政治家に忖度して自分たちの利権を維持している官僚や天下りを信用できるわけもない。北総鉄道の社長も天下りだ。

 

🔗統計不正「隠ぺいと評価してもおかしくない」 検証委員長が指摘

 

(関連ブログ)

 

 👉北総線の値下げ発表~来年10月1日から