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北総線運賃問題は本当に前進したのだろうか

  

 衆議院選で落選した立憲民主党の候補者と維新から出馬して落選した元鎌ヶ谷市長を支援していた市議が10月からの北総鉄道の値下げについて通学定期の64.7%を取り上げて成果として喧伝するビラが投函され、政治家にはつくづく期待できないと感じている。

 

 立憲の元議員はビラの中で「北総線運賃問題に国会議員の立場から取り組んできました。特に通学定期代を優先的に下げるべきだと提案してきました。他の多くの方々の働きかけもある中で、運賃問題が前進したことを喜ばしく思います。北総鉄道関係者の皆さんの努力に感謝いたします。」と書いている。

 

 市議のチラシはもっとセンセーショナルで「北総線通学定期64.7%の値下げ!」というタイトルが赤い背景色に白抜きの文字で印刷されていた。これまで熱心に北総線問題に関する情報を市民に定期的に流してきた人の言動としてはどうなのだろうかという思いがする。

 

 市議は元白井市長の北総鉄道への補助金支出の専決処分を違法とする裁判を先頭に立って進めた人だが、この裁判はいったいなんだったのだろうか。敗訴した元市長に同情する気はないが、私には単なる内部抗争にしか思えない。北総線の値下げを求める北実会の元リーダーだった元市長の裏切行為が許せなかったのだろうか。

 

 百歩譲って正義の戦いだったとしてもこの裁判で市民派の議員を応援していた市民が分裂してしまったことは事実だ。そして、その後、議会に占める市民派と言われる議員も減少してしまった。元市長の専決処分を支えていた保守系の議員は何のお咎めもないままだ。結局、彼らにうまく利用されただけだったように思う。

 

 🔗前白井市長に賠償命じる 地裁、請求通り2360万円 北総鉄道補助金の違法専決処分

 

 北総線の通学定期が京成線並みに値下げされた点を評価するのはいいとしても今回の値下げは利用者のためではないだろう。不都合な事実に蓋をするためではないだろうか。

 

 北総鉄道の運賃問題の解決には経営の透明性が不可欠あり、でその点は何も改善されていない。今回の値下げは問題の本質を隠蔽する可能性がある。

 

 例えば、北総鉄道がホームページで公開している決算報告は決算報告と言えるような代物ではない。官報に掲載される決算公告に毛が生えた程度の内容であることは、北総鉄道と同じ民鉄線事業で建設された東葉高速鉄道のホームページに掲載された決算報告と見比べてみればわかる。比較したときに北総鉄道の公開情報量の少なさは異様と言えるレベルだ。

 

 不透明な取引の最たる例がグループ間の線路使用料契約だ。公団線の地位を継承したと鉄道局が説明している千葉ニュータウン鉄道の累積赤字は過小資本と主に親会社の京成からの貸付金が原因だ。

 

 千葉ニュータウン鉄道は京成本社に住所を置く事務所すらない架空のペーパーカンパニーで実態は京成そのものだ。京成と千葉ニュータウン鉄道の損益を連結で開示すれば赤字など存在しないことがわかるはずだ。

 

 成田空港線の認可申請の際の運輸審議会の議事録の中で委員の質問に対して「平成16年7月に公団の第三種鉄道事業はCNTに譲渡されたが、その際、上記協定の内容は変更されず、協定上の公団の地位をCNTが承継し、現在に至っている。」、「北総鉄道は契約に基づく線路使用料の支払いを続けている。将来的には、CNTの累積損失が解消した時点で線路使用料の支払い方法も見直すようである。」という他人事のような鉄道局の回答が残されている。

 

 👉千葉ニュータウン鉄道

 

 そもそも、こうしたスキームを認可したのは鉄道局なのだから京成に対する事業譲渡後の監視をする義務が鉄道局にはあるはずだ。法律上、権利だけの地位の継承などあり得ない。彼ら役人は数年で代わり、責任を後から追及されることもないから公的な場でもこうした無責任な言い逃れができるのだろう。

 

 千葉ニュータウン鉄道区間は鉄道事業法上、明らかに京成の第一種鉄道事業だ。該当条文も存在する。鉄道局の解釈だけで法律が捻じ曲げられている。

 

 市議のチラシには「この値下げは今後の街づくりに大きな影響を与えるとともに、その波及効果が期待されます。北総鉄道は来期に50周年を迎え累積赤字が解消される見通しとなることから、それまでの頑なに閉ざしてきた沿線利用者の声に応える判断を下したものです。普通運賃は初乗りを210円から190円にするなど…」と断定的に書いている。

 

 さらに天下りの社長の経歴までビラに掲載して「今回の英断は社長の意向が大きいのではないかと思われます。それまで、歴代社長は京成電鉄からの出向というような位置づけで、京成電鉄や千葉ニュータウン鉄道などの取締役を兼務していました。しかし、現社長は昨年6月に両社を退社、沿線住民と持続可能な将来像に向き合っているものと考えます。」と北総鉄道の社長を礼賛している。

 

 私はかつて役所の外郭団体の天下りの理事長の仕事ぶりを間近で見たことがある。彼は、官僚時代は優秀な官僚と評価されていたようで眼光鋭く、理解力は優れていたように思う。しかし、毎日、定時に出社して定時に帰宅していた。仕事は部下からの報告や説明を受けて書類に判を押すことだった。役所も団体もそれ以上の仕事を理事長に期待していなかった。天下りの人間は他に何人も見てきたが、みんな上等なソファに座って帰宅時間まで時間をつぶすのが仕事だったように思う。ときどきソファでうたた寝をしていたのを思い出す。天下りの人間が有能かどうかは事業に何にも関係がないのが現実だ。

 

 市議は「今回の英断は社長の意向が大きいのではないかと思われます。」と書いているので単なる憶測か、誰かからの受け売りなのだろう。そもそも認可権を持っている事業者に官庁のOBが天下ることのおかしさに疑問を抱かないのだろうか。

 

 街づくりへの影響とか波及効果とか書いているが、具体的な内容は何も書かれていない。そもそも初乗り運賃では千葉ニュータウン地区の入口の西白井駅にすら辿り着けない。現実的な初乗り運賃は西白井までの280円になる。

 

 👉北総線の本当の初乗り運賃~東急電鉄の値上げと西白井駅の運賃

 

 チラシの紙面だけでは十分な内容を伝えられないという言い訳もできそうだが、議員ならきちんと数字で示して運賃値下げの効果を市民に説明してほしい。通学定期の利用状況を調べてその上で運賃の値下げの効果に言及するべきだと思う。単なる憶測を聞かされても何の意味もない。

 

 白井市の通学定期利用者は現在、何人いるのだろうか。利用しているのは大学生が中心なのだろうか。高校生はどのくらいいるのだろうか。彼らもいずれは成長する。通学定期を利用する期間はどのくらいなのだろうか。

 

 通学生を抱える家庭の経済負担が軽減されるだけで若い世代の流入や流出の抑制につながるとはとても思えない。負けるのがわかっていた運賃値下げ裁判は結局、時間潰しだったのではないだろうか。最高裁への上告の訴状を事前に市民が読んでいれば興ざめした可能性がある。

 

 期待だけ煽っておいて通学定期の値下げだけを過大評価をするのは次の選挙対策なのだろうか。選挙前になると思い出したように候補者は北総線問題を取り上げ、選挙後は次の選挙に向けてさらなる値下げというデジャブが繰り返される。大方の市民はもう北総線の値下げに期待していないのではないだろうか。

 

 ナッシー号を利用して新鎌ヶ谷駅に行っていた高齢者は踏んだり蹴ったりだ。昨年の8月に新鎌ヶ谷駅へのナッシー号の直通便が廃止され、西白井駅から新鎌ヶ谷駅までの北総線運賃も僅かに30円の値下げだ。この状況で北総線の利用を促す市は誰の味方なのだろうか。

 

 👉 2021年8月2日からのナッシー号のルート改正の不都合な事実(1)

 

 そして、8月のナッシー号のルート改正の内容については、とうとう議員は誰も市民に情報を提供していない。ルート改正に伴う委託経費がどのくらい増え、どういう問題があるのかについてなぜ知らせないのだろうか。利害と選挙しか頭にない議員はいらない。

 

 街づくりを口にするが、市の施策は中身のない上っ面の効果が期待できないものばかりだ。流山市や松戸市のマネでもいいからまとも施策で人口増加に取り組んだらどうだろうか。白井がよくならないのは、結局は市民の意識が低いことの表れなのかもしれないが…。今のまま行けば、周回遅れの白井が二流から三流に格付けされる日も遠くないかもしれない。

 

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