マスコミや政治家は北総鉄道の値下げを通学定期の64.7%の大幅値下げという点だけを強調しているが、北総鉄道は大盤振る舞いしたのだろうか。北総鉄道の通学定期の大幅値下げは英断だったのだろうか。
通学定期の下げ幅だけが独り歩きしているが、不思議なことに誰も通学定期の値下げがどの程度北総鉄道の経営に影響を与えるのか言及していない。
先月、小田急電鉄が小児IC運賃と小児通学定期券(磁気・IC共)を大幅に値下げして話題を呼んでいる。6才以上12歳未満のこどもの運賃が対象だ。小児IC運賃は片道最大445円が全区間均一50円に、1か月最大3,820円だった小児通学定期券も全区間均一800円となる。ただし、通学区間しか乗車できない。
小田急は値下げによる影響を年間2.5億円の減収となると試算しているという。しかし、大手私鉄が小児運賃だけとはいえ、全区間均一に値下げしてもその程度の減収で済むのかと私は別の意味で驚いてしまった。
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そこで、10月からの北総鉄道の通学定期の値下げの影響について調べてみた。通学定期のデータを北総鉄道は一般には公表していないので国土交通省が公表している鉄道統計年報で通学定期の数字を確認してみた。
しかし、鉄道統計年報は、いまだにExcelでデータを入力して集計しているようで公表に時間がかかり、現在、公開されているデータは2019年度(令和元年度)までだ。
仕方ないので2019年のデータと北総鉄道がHPで公表している2020年度の決算報告を使って調べてみた。北総鉄道の決算報告は官報に掲載される決算公告に毛が生えた程度の代物で通学定期のデータを公表していない。そのため、鉄道統計年報の2019年度のデータから2020年度の数字を推測することにした。
2019年度の通学定期利用者の輸送人員は4,609千人で輸送人員全体に占める割合は12%だ。通学定期の運輸収入は613,780千円で運輸収入全体に占める割合は5%にすぎない。
北総鉄道の2020年度の決算報告ではコロナ禍の影響で輸送人員が23.3%、運輸収入が25.3%減少している。しかし、定期の運輸収入と通勤・通学定期別の輸送人員は公表されていない。
そのため、2020年度の通学定期の運輸収入が全体の減収率と同じ程度減少し、通学定期の割合が2019年度と同じ5%と仮定してみた。実際にはオンライン学習でほとんどの学生があまり通学できなかったと仮定するともっと減収している可能性があるが、2020年度の通学定期の推定運輸収入は474百万円程度だろうか。すると、通学定期の値下げによる年間の減収額はコロナ禍の影響がしばらく続くとした場合、307百万円程度か?
運輸収入合計9,471百万円×5%=推定通学定期運輸収入474百万円
予想年間減収額=474百万円×64.7%=307百万円
しかし、通学定期の大幅な値下げでこれまで北総線を利用していなかった通学生が利用する可能性を考えると減収額はもっと少ないかもしれない。とりわけ、千葉ニュータウン地区の沿線の通学生より千葉ニュータウン地区以外の通学生で高額運賃を嫌ってこれまで北総線を利用していなかった通学生層の純増が期待できる可能性まで考えると北総鉄道の通学定期の大幅な値下げは宣伝効果大のコスパのいい行動だったのかもしれない。あるいは、成田空港方面からアクセス特急で通学するケースも予想される。
こう考えると北総鉄道の通学定期の大幅値下げが経営に与える影響は極めて限定的だと予想される。効果的な値下げを北総鉄道側に求めて今回の値下げが実現したとアピールしている政治家がいる。効果的な値下げとは選挙で成果を有権者に示しやすい形の値下げをしてほしいということなのだろう。
政治家にとって北総線値下げ問題は有権者の歓心を買うための材料にすぎない。選挙が終われば、事業者の顔を見ながら仕事をする政治家ばかりだ。もう政治家に期待するのはやめにした方がいい。彼らには選挙のことしか頭にない。
来年の市議会選挙対策なのか、最近、議員からカラー刷りの活動報告のチラシがポストに投函されることが多くなった。不思議なことに誰一人として北総線の値下げについて言及していない。有権者から苦情でも来ているのだろうか?
熱心に北総線の値下げに取り組んでいた人たちからのチラシも最近は投函されなくなった。20年以上に亘る成果が今回の値下げで実現したのだろうか。二つの値下げ裁判と元市長に対する違法専決処分裁判は今回の値下げにどういう効果をもたらしたのだろうか。
忘れてならないのは鉄道運賃の上限制だ。一度認可された上限運賃は見直されることがないということだ。北総線の運賃は支払利息がピークのときに認可されたもので限界運賃とも言えるものだ。しかも、資本金に連動した配当所要額という架空の原価でコストがかさ上げされている。
一度認可されたら、上限運賃は変わらない。だから、上限運賃制度は、北総鉄道の既得権になっている。今回の値下げも収益が苦しくなったら、届け出だけで元に戻すことが可能だ。電気料金と同じですべてのコストを転嫁できるのが中小民鉄事業者に認められた総括原価方式だ。事業者の自助努力を奪う制度だと言える。