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鉄道統計年報の正誤表が教えてくれること~京成と国交省の悪だくみ(1)

前回の「北総鉄道の通学定期の値下げについて誰もちゃんと分析しないので調べてみた!」というブログを書いた後で過去の通学定期の輸送人員の推移が気になって調べていた。

期せずして北総鉄道と成田空港線のアクセス特急の収入配分による輸送人員への影響がわかった。実は、私は北総鉄道が2012(平成24)年度の決算報告をホームページに公開したときに輸送人員を修正していることに気が付いていた。それは、前年度より輸送人員が減っているのに公表された数字は3.1%のプラスになっていたからだ。

理由はアクセス特急との収入配分による輸送人員の減少をそのまま公表することを避けたかったからだろう。しかし、収入配分を行えば、当然、北総鉄道の既存の運輸収入が減少することになり、統計の整合性を保つためには輸送人員の修正は不可避だっただろう。収入配分による運輸収入の減少については線路使用料収入と運輸雑収を足した総収入(営業収益)が増えることで説明がつくと考えていたのだろう。実際の決算の説明も営業収益の増収を強調する内容になっている。

私は、データの修正に気が付いたときに統計の継続性の問題をどうするのだろうかと思っていた。収入配分前と収入配分後でデータの連続性がなくなり、統計的比較が無意味になってしまうからだ。

京成電鉄が成田空港線を分離会計しないことが認可時の運輸審議会の議事録に残されているから収入配分後の成田空港線の正確な収支状況は当事者すらわからない可能性がある。統計的継続性を考えれば、京成と北総鉄道のデータを合算して京成としてデータを比較する以外にないのだろう。

現在、北総鉄道は京成の連結決算の対象で実態としては既に京成の鉄道事業の一部門にすぎないと考えるのが妥当だ。千葉ニュータウン鉄道は実態のない京成100%のペーパーカンパニーだから京成、北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道の3者間の取引はグループ内のキャッチボールにすぎない。

今回、久々に鉄道統計年報のデータを調べていてネットに掲載されていた正誤表に気が付いた。驚いたことに2012(平成24)年度の輸送人員のデータが誤りの訂正という形で修正されていた。さらに2010・2011(平成22・23)年度の輸送人員のデータも2016(平成28)年12月19日付けで遡って修正されていた。

ところで、最近まで鉄道統計年報を精査する機会がなかったので気づかなかったが、鉄道統計年報の京成の欄に成田空港線の収入や輸送人員等のデータが掲載されているのを知った。今回は中身については触れないが、後日、運輸収入と輸送人員のデータを北総鉄道と比較してみるつもりだ。

2010~2012(平成22~24)年度の北総鉄道の輸送人員を訂正した正誤表
2010~2012(平成22~24)年度の北総鉄道の輸送人員を訂正した正誤表

鉄道局がネットで公開している2012年度の修正済みの電子データ(2010・2011年度は紙ベース)について注記ではなく、わざわざ正誤表を作成したのはいかにも責任問題に敏感な役人らしい。修正した記録が残っていなければ、修正の事実が後から発覚したときに担当者が独断で修正したことになってしまう。

しかし、データの入力ミスでないことは明らかだが、修正した理由の説明を省略するために正誤表という形を敢えて選択したのだろう。成田空港線は2010(平成22)年7月17日開業だから、修正はアクセス特急との収入配分に伴うデータの整合性に配慮して輸送人員のデータを修正したものと考えられる。北総鉄道は2010・2011年度決算で修正前の輸送人員を公表しており、2012年度決算から修正したデータを使用している。株主に配布される事業報告書には対比表は載っていないもののホームページの決算報告と同じデータが使われている。しかし、修正の事実については決算ではまったく触れられていない。

正誤表で誤りとされた紙ベースだった2010年度と2011年度の修正前の数字は北総鉄道が決算時に公表した数値と一致しており、鉄道局の入力ミスもしくは冊子の校正漏れの可能性はない。だから、鉄道局が「お詫びして訂正」する必要はない。2012年度の輸送人員の修正に合わせて遡って2010年度と2011年度の数値も修正したのだろう。

輸送人員の数値は大きく修正され、まったく異なる数値になっているのに不思議なことに修正前と修正後で定期と定期外の構成比率が変わっていない。構成比率が変わらないように間違って入力することはExcelの達人でも不可能だろう。2012(平成24)年度は修正前と修正後で前年比まで同じだ。

修正した3年間すべての構成比率が修正前と修正後で変わっていない。修正前の2010・2011年度決算の輸送人員は対前年比でプラスだったのが、修正後はマイナスになっており、2010年度の修正前と修正後の乖離は実に7%にも及んでおり、264万人近く輸送人員が減少している。2011年度と2012年度も修正後は400万人減少している。

北総鉄道の集計ミスの可能性もあり得ないだろう。普通の企業ならこれだけ大幅な修正があればホームページで速やかに訂正報告しているはずだ。鉄道局が2010年度及び2011年度の輸送人員のデータを修正したのは北総鉄道の決算発表から実に5年以上経過してほとぼりが冷めてからだ。5年以上前に北総鉄道がホームページで公表したデータを保存している人間はそういないはずだ。建設工事受注動態統計の書き換え問題同様、国土交通省の隠蔽体質が疑われる。モラルより責任回避が彼らには染みついているのだろう。

当の北総鉄道は2010年度と2011年度に決算で公表した修正前の輸送人員をその後の決算で訂正していない。それどころか、2010年度までは通勤定期、通学定期、定期外別に運輸収入と輸送人員の内訳を前年度と対比して決算で公表していたが、2011年度以降は定期と定期外の輸送人員だけしか開示していない。運輸収入に至っては内訳をまったく開示しなくなっている。さらに翌年の2012年からは前年実績と比較増減の欄もなくなっている。当該年度の実績と前年比の数値だけのシンプルな表示には相当な違和感がある。前年度の決算報告と照らし合わせない限り、部外者にはデータが修正されていてもわからない。

運賃上限制で「手続きの簡素化・合理化」だけでなく、「情報公開の促進(簡素化・合理化?)」も進んでいる!
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 もし、収入配分が反映されている運輸収入と収入配分が反映されていない輸送人員の併記を続ければ、整合性が取れなくなる。収入配分前の2009年度を基準にした場合、3年間で45億円以上の運輸収入が減少している。その間の北総鉄道の線路使用料は累計で40億円弱だから、収入配分による運輸収入の減少が線路使用料収入で埋め切れていない。この間、輸送人員は増加しているので収入配分によりもっと多くの運輸収入が京成に移転しているはずだ。2012年度から収入配分が反映された輸送人員に修正するために前年実績を記載せずに修正後の前年比の数値だけを公表することにしたのだろう。2012年度は運輸収入が前年比で2.9%の増加になっているが、収入配分実施前の2009年度に比べると1,483百万円減少している。

 

 普通なら、自社の運輸収入が減ることを前提にして線路を貸すようなお人よしの事業者はいないだろうし、上場企業なら株主から訴訟を起こされるリスクがある。大株主が事業の認可権を持っている国で京成グループ内の循環取引だからこうした常識外れの運営が行われているのだろう。

 

 国交省が運賃値下げ裁判で示した判断基準は、線路を貸しても損はしないけど得もしないという事実を「収支均衡の確保」とか「長期収支見込みは変わらない」というものだ。収入配分による北総鉄道から京成への乗り換わりの収入影響額が線路使用料を上回った場合に超過分を追加線路使用料として払うことになっているが、これは線路使用料の原資が収入配分であることを認めているようなものだ。適正な原価に基づく適正な取引なら追加線路使用料を払う必要性はないのではないだろうか。京成が線路使用料を負担しないしくみを考えたつもりなのだろうが、世間の常識と大きく乖離しており、屁理屈にもなっていない。肝心のスカイライナーの線路使用料については、収入配分では説明できないので完全にスルーしている。

 

こうした開示内容の変更は、2010年の成田空港線の開業で始まったアクセス特急との収入配分の実態を知られたくないための対応であることは容易に想像がつく。そして、鉄道統計年報の正誤表という形でのデータ修正は鉄道局が北総鉄道というより京成に配慮していることを示しているのだろう。

アクセス特急との収入配分は極めて複雑で分かり難いが、正誤表の輸送人員の修正は収入配分が固定的な比率による単純な分配である可能性を示唆している。輸送人員の修正が収入配分に基づいて行われているならば、収入配分が北総鉄道の運輸収入の〇%を京成に配分するという単純な形で行われている可能性がある。

北総線と成田空港線の改札が分かれていないため、アクセス特急と北総線の正確な輸送人員数は事業者にも分からないはずだ。そのため、実際の運行データではなく、予め決められたルールで列車の運行本数から収入配分に使う分配率が決められているのではないのだろうか。

成田空港線が年度途中から開業した2010年度は別として、2011年度と2012年度の輸送人員の修正で通勤、通学、定期外ともほぼ同じ比率(10%ちょっと)で減少している。年換算すれば2010年度も2011・2012年度と同程度の10%に近い減少率になる。偶然の一致ということはないだろう。このことから複雑な分配ルールは取り分を決めるために試行錯誤して都合のいい比率を導き出すために使われただけなのではないだろうか。実際の収入配分は毎年、決められた分配率で行われ、数年単位で見直すことになっているのではないだろうか。

北総線の輸送人員の推移表を2010~2012年度のデータ修正前と修正後で作成してみた。データ修正後はすべて2012年の水準を上回っている。しかし、データ修正前の場合はいまだに2012年度の水準に到達していない。

利用者が支払った運賃の一部が一方的なアクセス特急の利便性の享受を理由に京成へ収入配分の形で移転されている。アクセス特急の止まらない各駅停車の駅の利用者は、成田空港線の開業後、アクセス特急とスカイライナーの通過待ちの苦痛とアクセス特急に乗車した場合は途中のアクセス特急の停車駅での乗り換えを強いられている。

千葉ニュータウン鉄道区間の北総鉄道と京成の線路使用料の金額の違いを単純に比較して議論することは意味がないように思う。北総線の千葉ニュータウン鉄道区間の実質的な線路使用料は、千葉ニュータウン鉄道が線路使用料として全部取りしたこの区間の運輸収入から戻される負担金収入(北総鉄道の運行経費の実費)を控除した額だと考えるのが妥当だろう。

北総鉄道は、本来、線路使用料に含まれるべき印西車両基地の使用料として1.75億円を線路使用料とは別に2024年まで千葉ニュータウン鉄道に支払うことになっている。

こうした理不尽な仕組みは、成田空港線の構想当時に京成が北総線区間の線路使用料を負担しないという取り決めがあったという噂を裏付けているのかもしれない。成田空港線の建設費を成田国際空港にプールしていた国土交通省が京成の要求に沿ってでも早期に成田空港線を開業したいと考えていたことは想像に難くない。

だから、アクセス特急の収入配分のスキームも鉄道局が主導した可能性すらある。アクセス特急の収入配分でいつの間にか本来、関係のないスカイライナーの線路使用料もうやむやになってしまった。京成が北総鉄道に支払うべき線路使用料を結局、北総鉄道が肩代わりしているのが実態だ。

千葉ニュータウン鉄道に京成が払っている線路使用料に至っては、茶番そのものだろう。京成100%出資のペーパーカンパニーに線路使用料を払っても連結決算で支出と収入が相殺されてしまう。この区間も京成の実質的な線路使用料は0円だ。

そもそも鉄道事業法では、第2種事業者(京成)と第3種事業者(千葉ニュータウン鉄道)が同一の場合は、第1種事業者になると規定している。第3種のペーパーカンパニーを設置すれば適用除外になるのだろうか。役所の都合のいい解釈で物事が決められている。

他の事業者が同じマネをしても前例踏襲の役所は対抗できないだろう。ハードルは低い、資本金1千万で開業1年で債務超過になってもお咎めなしだ。借金漬けのペーパーカンパニーを設置して収入を移転すれば利益操作が可能だ。多額の貸付金の支払利息で収益を圧縮することができる。ただし、株主代表訴訟のリスクのある上場企業にはハードルが高いだろう。

自治体も北総鉄道の株主になっているが、言葉だけでどの自治体も株主代表訴訟を起こさないのはなぜなのだろうか。突っ込みどころは山ほどあるが、最後は、国が適切として認可し、上限運賃制では運賃の決定権が事業者にあるという言い逃れが用意されているからだろう。建前だけの役所と政治家には先送りしかできないのだろう。役人にとっての適切とは手続きのことを言っているだけで中身は関係ない。こういうのを普通、無責任というのではないだろか。