消えた1,000万人の輸送人員の行方
「鉄道統計年報の正誤表が教えてくれること~京成と国交省の悪だくみ(1)」に掲載した鉄道統計年報の正誤表による修正で3年間で実に1,000万人以上の輸送人員が消えてしまっている。失われた輸送人員はどこに行ったのだろうかという疑問が湧いた。
訂正表による訂正が訂正でないことは前回までのブログで究明した。参照する手間を省くために最初のブログで掲載した訂正表による修正状況を下記に再掲する。ただし、訂正表の2010年度の修正後の定期の前年度比が間違っていたため102%→95%に訂正してある。
表を見ると修正により2010~2012年度の3年間に10,701千人の北総鉄道の輸送人員が減少していることがわかる。これだけの修正をしたのにどういう誤りに基づく訂正なのか一切説明がない。10,701千人程度の修正は全体から見れば、統計上問題ないレベルだから説明の必要がないとでも言うのだろうか。
まるで単なる入力ミスや印刷ミスのような扱いだ。しかし、単純なミスに基づく修正でないことを明らかにするために鉄道統計年報のデータを検証してみた。
訂正されたのは成田空港線開業により北総鉄道とアクセス特急による運賃の収入配分が始まった年度だ。動機は収入配分による北総鉄道への影響がわかる資料の公表を遅らせたかったからだろうと推察される。これまでも鉄道局は鉄道統計年報の発行を故意に遅らせたことがあった。
2011(平成23)年度まで鉄道統計年報は冊子で発行されており、北総線値下げ裁判の前後に異様に刊行が遅れた時期があった。国土交通省の図書館で鉄道統計年報を閲覧していたときに棚から最新版が消えていて不思議に思って管理職らしい責任者と思われる女性に尋ねると自分の机の下から取り出して手渡されたことがあった。確か、整理のためだというような説明だったが、次に図書館を訪れたときにはその人はもういなかった。
まるで推理ドラマのような展開に日本の役所の体質を見た気がした。彼らは3年程度で異動があり、基本的に前任者からの引き継がない。だから、異動で担当者が変わると最初から同じ質問をするはめになったりする。長期間、同じ職務を続けることにより生じる不正を防止効果はあるとは思うが、一方で役人の無責任体制を支えるしくみになっているように思う。
収入配分が動機という前提で成田空港線と北総鉄道のデータを調べてみた。残念ながら、紙ベースのデータはもう手許にないのでネットに公開されている鉄道統計年報を調べた。当初、成田空港線については認可時の運輸審議会の議事録に京成が分離会計をしなことが残されていたので鉄道統計年報にはデータが掲載されていないものと思い込んでいた。しかし、統計情報として運輸収入や輸送人員等のデータの提出が事業者に義務付けられているようで成田空港線のデータが掲載されていた。
鉄道統計年報のデータから作成した最初の表が次の表だ。収入配分が始まる前の2009年度の実績と収入配分が始まった2010年度から3年間について比較してみた。この3年間は訂正表による修正が行われた年度だ。
北総鉄道が2012年度の決算で訂正前の輸送人員のデータを使用しても前年度比は変わらない。しかし、前年度実績を修正しないまま修正後の数値を掲載すれば、輸送人員が△7.5%の減少になってしまい、収入配分後の運輸収入2.9%増との差の説明が苦しい。そこで考えられたのが、過去2年分の訂正を先送り、もしくはうやむやにしたまま前年度実績欄と比較増減欄をなくして決算年度と前年比しかない奇妙なデータを公表するという方法なのだろう。そのスタイルが、現在も続いている。北総鉄道が過年度の輸送人員の訂正について公表した事実を確認できないので、結局、うやむやにすることにしたのだろうか。
一方で鉄道局は、なぜ訂正表を掲載しないままデータを修正しなかったのだろうか。私みたいな暇人でも訂正表が公表されなければ、データの修正に気が付かなかったと思う。おそらく、訂正の事実を残さないままデータを修正すれば、事実が発覚したときに担当者もしくは担当部署の責任が問われる恐れがあったからではないだろうか。あるいは、対応マニュアルに従っただけなのかもしれない。もしくは、彼らが得意の想定問答の結果の対応ということも考えられる。しかし、彼らの想定問答による対応は猿の浅知恵で終わることが多い。
収入配分前の輸送人員のデータを使い続ければ、統計上の整合性が失われてしまうため、鉄道局が北総鉄道にデータの訂正を求めたのかもしれない。しかし、北総鉄道は決算で公表済みの過去の輸送人員を訂正したくなかったことが容易に想像される。そして、両者の妥協の産物がデータの訂正の事実の公表を遅らせ、あたかも入力ミスであったかのような訂正表という責任問題が表面化しにくい方法が採用されたのかもしれない。
しかし、訂正表という形をとったことで鉄道統計年報の信頼性は大きく損なわれたように思う。データの訂正事由の説明もなく、軽微とは言えない修正を行っているため修正後のデータが本当に正しいデータなのか不明だ。北総鉄道に都合のいいデータ改ざんが行わているのではないかという疑義を排除できない。
そこで失われた1,000万人の輸送人員の行方を追ってみた。鉄道局には、まだ統計に対する多少の矜持が感じられるので収入配分で北総鉄道から成田空港線に移転した輸送人員が成田空港線に計上されているだろうと考えて作成したのが次の表だ。
2012年度以降の成田空港線の定期の輸送人員が安定的に推移しており、前年度比も似ていることから北総線との収入配分に基づく輸送人員は開業時から計上されていたと考えられ、訂正表による北総鉄道の減少分は重複計上されていた分を解消するためだったものと推測される。また、成田空港線の輸送人員に北総鉄道との収入配分の分を計上しないデメリットはあってもメリットはないと考えられる。
また、北総線内同様に京成本線内もアクセス特急と京成本線が改札で区分されていないので路線別の運輸収入と輸送人員はわからないはずだ。わざわざ収入配分して管理するメリットもないのでアクセス特急の京成本線内の収入と輸送人員は京成本線に計上されているものと考えられる。成田空港線の収入と輸送人員の中には京成本線分は含まれていないものと推測される。印旛日本医大⇔成田空港のアクセス特急分は成田空港の改札を通過するので判別可能だろうから成田空港線の運輸収入と輸送人員に含まれていると考えられる。成田空港線の定期と北総鉄道からの定期の配分予想額との差は大半がアクセス特急の印旛日本医大⇔成田空港間の分ではないだろうか。
定期にくらべ成田空港線の定期外の輸送人員と運輸収入が大きく増えており、収入は倍増とも言える状況だ。定期外の大半がスカイライナーの分なのだろう。驚いたことに線路を借りて運行している成田空港線の運輸収入が北総鉄道の運賃収入+線路使用料収入を2019年度には上回っている。定期外の輸送人員も100万人弱程度の差しかない。調べていないが、北総線の区間を走行している成田空港線の電車の方が多いのだろうか。こういうのを庇を貸して母屋を取られると言うのではないだろうか。
鉄道統計年報の正誤表は収入配分額が北総鉄道の運輸収入に一定の分配率をかけて求められている可能性を示唆している。輸送人員も北総鉄道の輸送人員に同じ分配率を適用して配分している可能性がある。管理上もその方が楽だろう。統計の整合性を保つためにはそれ以外の適当な方法が思い浮かばない。そう考えると2010~2012年度の輸送人員は北総鉄道と成田空港線に重複計上されていた分を修正したと考えるのが妥当だと思う。
デジタル化とは程遠いお役所仕事
鉄道統計年報を久々に閲覧してみて役所のデジタル化の遅れを改めて感じた。データは毎年5月末に事業者が提出する実績報告書がベースになっているようだが、事業者はPDF形式かExcel形式かを選択して陸運局に提出することになっている。
ネットで各事業者がデータを入力する方式にどうしてできなのだろうか。システム構築時に費用がかかるが、その後はメンテナンス費用だけで済む。鉄道局の担当者が陸運支局から送られてきた来たデータからExcelを使って1年以上かけて集計するという無駄な時間を短縮できるはずだ。
Excelで情報を公開すること自体はデータを利用したい事業者や研究者の利便性につながるので否定するつもりはない。しかし、所詮、Excelは個人が使う集計表ツールにすぎず、大量のデータを処理するには荷が重いのではないだろうか。また、担当者個人の資質によってデータの信頼度が変わってしまう可能性がある。
Excelでこれだけの量のデータを処理する場合、おそらく、データ修正後の再計算の設定が、保存時に再計算する設定になっていることだろう。もし、自動計算に設定していれば、再計算でPCの処理速度が大幅に遅くなってしまう可能性がある。しかし、すぐに再計算されないと修正したデータが修正前のままになり、データが正しく修正されているのかすぐにわからない。かといって後で誤っていたデータを見つけて修正する作業も労力を要する。
システムでデータをチェックする方法について知見がある人の場合は、Excelで入力ミスを防ぐための数式やしくみを設定することである程度の対応ができるかもしれないが、データの信頼性が担当者レベルで変わってしまう可能性がある。
最近、ダメな上司の例を取り上げた記事をネットで読んだ。そこにはExcelで作成した書類を電卓をたたいてチェックする上司の姿が描かれていた。部下の言い分は、Excelで計算したから間違いないのにというものだった。
これは、たいていの場合、真実だ。しかし、Excelのバグでなくてもデータが間違っている可能性があるという点を考えないことは危うい。入力したデータに誤りがなくても、設定した数式に誤りがある可能性がある。あるいは、保存時に再計算する設定の状態で保存前のデータの数値のみコピーして使った場合には修正前のデータを使っている可能性がある。
今回の2010(平成22)年度の正誤表にもこの類の誤りがあった。訂正後の全体の輸送人員の前年度比が95%になっているのに定期の前年度比が102%になっていた。おそらく、元データから数値のみコピーして修正し忘れたか、あるいは再計算前のデータをコピーしたのかもしれない。
データの誤りではないが、鉄道統計年報の2015(平成27)年度の運輸成績表(収入)にウインドウ枠の固定の設定もれがあり、スクロールするとタイトル行が見えなくなってしまうため、仕方なく表を一度ダウンロードしてから自分でウインドウ枠の固定を設定した。
私もExcelを使っていてときどき同じようなミスをする。だから、後でときどき作成したデータを見直しているが、それでもミスは残る。だから、Excelで計算しているから絶対に間違いがないということこそ思い込みにすぎない。
鉄道局も予算も人もいなくてシステムの導入にまで手が回らないのかもしれないが、ミスをチェックするしくみを検討するべきだ。それは、重要なデータは原始的でも読み合わせをするとか、複数の人間で二重三重にチェックする方法が考えられる。あるいは、入力したしたデータをチェックするためのプログラム(Excelでも構わないが)を別に作成してデータの機械的チェックを入れるだけでも違うように思う。
統計データが大切なもので厳格に管理されていて信頼できるものだということを国民に示してほしい。そうでなければ統計の集計作業が価値の低い単純労働で終わってしまう。
ミスが起こらないための工夫をすれば、訂正表を再度訂正しなければいけないようなお粗末を晒すこともなくなるだろう。
北総線の高額運賃問題の根本的な解決方法
京成が自分たちの思い通りに北総線を運営したいのなら、いっそのこと北総鉄道を100%の子会社にしたらどうだろうか。千葉ニュータウン鉄道並みの情報開示が可能になり、外部からは事業内容について口を挟まれることもなくなるだろう。
コロナ禍を乗り切れば、スカイライナーと北総線の高額運賃で安定的な経営ができるだろう。うるさい沿線住民は乗らなけばいいだけだ。国と自治体から株を買い取って自由な経営に切り替えたらどうだろうか。利用価値のなくなった天下りの受け入れを止めれば人件費も節約できるだろう。
しかし、今のままの方が経営リスクが少ないと考えているのだろう。北総鉄道の保有比率(グループで51%)をこれ以上引き上げず、鉄道運輸機構の残債を完済するまではこのままのぬるま湯状態が彼らには望ましいのかもしれない。設備投資には国や自治体の補助金がほしいのだろう。
鉄道局のサポートがなくなり、鉄道事業法の解釈が変われば、千葉ニュータウン鉄道を継続することが困難になるかもしれない。鉄道事業法上、同一の事業者が第2種事業者(京成)と第3種事業者(千葉ニュータウン鉄道)を兼ねることは認められていない。千葉ニュータウン鉄道が京成の100%のペーパーカンパニーでも同一の事業者に当たらないのはどうしてなのだろうか。
金融の世界では自己契約と特定契約には厳しい制限がかけられている。しかし、運送業では国土交通省の解釈次第だ。どこが法治国家だろうか。役所の裁量で法律の解釈がどうにでもなるのが現実だ。あいまいな規定をつくり、運用でセーフか、アウトかが決まってしまう。規制緩和を叫ぶ前に穴だらけの規制を見直すべきだろう。
鉄道事業に人的・資本的規制をかけて適正な情報公開を事業者に義務付ければ北総線問題も一気に解決することだろう。理由があって運賃が高いならそれは仕方ないだろう。しかし、多額の税金が注ぎ込まれているのに事業者の利益追求のために運賃が高いのなら改善されなければならない。
もし、千葉ニュータウン鉄道の所有区間が京成の第1種事業だったら、北総鉄道と京成の線路使用料問題が大きく変わるはずだ。高砂から印旛日本医大を相互乗り入れ区間とし、京成と北総鉄道は対等な関係のもとに北総鉄道は高砂から小室までの運賃を総取りし、京成は小室から印旛日本医大までの運賃を総取りする単純な形にすることができるはずだ。
北総鉄道は、自社区間を走る北総線とアクセス特急の運賃を総取りし、スカイライナーからは適正な線路使用料を徴収することができる。そして、京成は小室から先のすべての運賃を総取りすることになる。そうすれば、運賃の上昇幅が極端に大きい第2区間(4~5キロ)の運賃を見直すきっかけになるかもしれない。
相互乗り入れになっても北総鉄道の北総線の運輸収入は変わらない。なぜなら、ろくでもない理由はともかく、小室から先の運賃収入は既に千葉ニュータウン鉄道に総取りされているからだ。その代わり、運輸雑収に含まれている千葉ニュータウン鉄道から戻される千葉ニュータウン鉄道区間の運行経費はなくなることになるだろう。一方で千葉ニュータウン鉄道に線路使用料を払う必要がなくなる。
しかし、相互乗り入れになっても北総鉄道の本来の運輸収入に戻るだけだろう。なぜなら、アクセス特急との収入配分は線路使用料との相殺が目的だったと考えられるからだ。上記「北総線の運輸収入と線路使用料の推移(2012~2019)」の表を見ると運輸収入と線路使用料の合計に占める線路使用料の比率が一定になっていることがわかる。これは収入配分と線路使用料がリンクしていることを物語っている。
収入配分による北総鉄道から京成への乗り換わりの収入影響額が線路使用料を上回った場合に超過分を追加線路使用料として払うことになっているが、これは線路使用料の原資が収入配分であることを認めているようなものだ。追加線路使用料の支払いにより運輸収入と線路使用料のバランスが取られているのだろう。
鉄道局はスカイライナーの線路使用料を京成が負担しないことを許容したが、アクセス特急の運行で北総鉄道の収支に影響が及ぶことまでは容認できなかったのだろう。しかし、収入配分でスカイライナーの線路使用料問題が解決されたわけではない。いつかリベンジするチャンスがあるかもしれない。
アクセス特急の実態は北総線の特急なのだろう。そう考えると運輸雑収の中に含まれる成田スカイアクセスの業務受託手数料はアクセス特急の運行経費の可能性がある。しかし、北総鉄道が情報公開に後ろ向きで株主の自治体も北総鉄道の業務の内容を確認する努力をしないから詳細は不明だ。
収入配分の真の目的はスカイライナーの線路使用料問題を煙に巻くための方策だったのだろう。自治体や政治家は煙に巻かれた振りをしている。作家の宮本百合子の「幸福の建設」の中に「見ざる、言わざる、聞かざるででくの坊」という一文が使われているそうだ。しかし、最近の役人や政治家はそう言われても何も感じないことだろう。
一番悪いのは、改札が完全分離されていて収入配分の対象でもない北総線内を線路使用料を払わずに通過しているスカイライナーについて見ざる、言わざる、聞かざるを決め込んでいる北総鉄道だろう。結局、北総鉄道がスカイライナーの線路使用料の支払いを京成に免除していることになる。それともスカイライナーは通過しているだけだから北総鉄道の経営に影響与えていないとでも弁明するつもりだろうか。北総鉄道は親に庇を貸して母屋を取られた子供のようだ。いくじなしの自治体には株主代表訴訟を起こすの勇気もない。アクセス特急が走って収入が増えたと主張する北総鉄道とその仲間たちの姿は滑稽でもある。