北総線と成田空港線の運行状況
前回 の「鉄道統計年報の正誤表が教えてくれること~京成と国交省の悪だくみ(3)」というブログで北総鉄道の輸送人員の推移を調べていてコロナ禍の影響がまだ軽微だった2019年度に成田空港線の運輸収入が北総鉄道の実績を上回っていたことに気が付いた。
ひょっとして運行本数も成田空港線の方が多くなっているのかもしれないと思い、調べてみた。下の表がその結果だ。
平日は、北総線が上下166本、成田空港線(アセス特急+スカイライナー)が136本だった。土休日は、北総線が上下118本、成田空港線は平日と同じ136本を運行しており、北総線を上回る車両を運行している。平日では北総線の運行本数が成田空港線を上回っているが、成田空港線の運行本数は北総線の8割以上に上っており、決して少ない運行本数ではない。
さらに、下の北総線と成田空港線の時刻別の運行状況を詳細に見てみると日中の時間帯では成田空港線の運行本数の方が総じて多くなっている。スカイライナーは日中1時間に3本が固定的に運行されており、これにアクセス特急が1~2本加算されるので常に1時間に4~5本が運行されている。
一方、北総線は郊外と都心を結ぶ通勤・通学電車という性格上、朝夕の本数が多くなっているが、通勤時間帯以外の利用者の少ない日中は1時間に3本しか運行されていない。1時間に3本という本数は、都心の鉄道利用者が利用する気になる最低の運行本数だろう。その時間帯にアクセス特急が走行すれば、北総線の利用者がさらに減少するのは当たり前だろう。
通勤・通学時間帯と違い、日中の定期券を持っていない利用者は速達性より運賃に高い関心を持っている。高い運賃を負担させられた上にアクセス特急の停車しない各停の沿線利用者は途中でスカイライナーとアクセス特急の通過待ちを強いられ、仮にアクセス特急へ乗り換えたとしても目的地がアクセス特急が停車しない駅だと同じ路線で2度目の乗り換えを強いられた挙句、乗り換え駅での各停の電車待ちで結局、目的地までの所要時間はたいして短縮されないことになる。
北総線の利用者を増やすという観点からは、アクセス特急が北総線と同じ線路を走ることはプラスの効果は期待できない。アクセス特急の走行でインバウンド客が増えても北総線への乗り換え客が増えなければ意味がない。インバウンド客が北総線のアクセス特急が停車しない駅で乗降する可能性は極めて低い。
結局、アクセス特急のメリットは利用駅によっては速達性の恩恵が受けられますよ程度のことなのだろう。
上下分離と北総鉄道の費用負担と収入
今回、久々に北総線と成田空港線の状況を詳細に調べてみて気づいたのは、千葉ニュータウン鉄道に移管される前の公団線・千葉ニュータウン鉄道・アクセス特急と北総鉄道の費用負担と収入の類似性だ。鉄道の運行と線路(鉄道設備)を分離する上下分離が北総鉄道の経営(費用負担と収入)にどのような形で影響を及ぼしているかを示したのが下の表だ。
いずれも、北総鉄道の運輸収入を原資にして北総鉄道に費用を払い戻すスキームになっている。すべての原点となっているのは公団線時代のスキームではないだろうか。当初のスキームは北総鉄道の経営に影響を与えないというものだったはずだが、千葉ニュータウン鉄道のスキームは逆転している。
公団が第3種鉄道事業者だったときは公団線の赤字を公団が負担していたが、公団線を継承した千葉ニュータウン鉄道の赤字(私は架空の創られた赤字だと考えている。)を補填するために北総鉄道が赤字を負担する構図に変質している。なぜなら、北総鉄道は千葉ニュータウン鉄道所有区間の運輸収入全額を千葉ニュータウン鉄道に丸取りされ、そこから運行経費の実費だけを戻してもらっているので最低でも車両基地の使用料と車両の賃貸料の負担分が赤字になっている格好だ。立派に北総鉄道の経営に影響を与えている。
アクセス特急も運賃の収入配分という形で北総鉄道から運輸収入をもぎ取り、線路使用料という形で戻している。もし、アクセス特急の運行を北総鉄道が受託しているとすれば、成田スカイアクセスの業務受託手数料が運行経費の実費の可能性がある。北総鉄道の開示情報があまりにも少ないのは、われわれに謎解きの醍醐味を伝えようとしているのだろうか。しかし、北総鉄道はヒントを与えてくれるが、答えを公表しないので正解は不明だ。
アクセス特急の収入配分が北総鉄道の経営に影響を与えないという理屈で収入配分を原資にして北総鉄道に線路使用料という形で戻されている。こどもが経営している八百屋の店舗の一部を親が借りて同じ八百屋を始めたために販売面積を基準にして売上を分配することになり、親がこどもの商売に影響を与えないようにとこどもの減少した売上をテナント料の支払いで調整するような構図だ。店全体の客数と売上はあまり増えていないが、品揃えが増えたことを喜んでいるお客もいるからこどもは商売にプラスになっているという説明を周囲にしているようなものだ。
アクセス特急は北総線の運行区間では利益が出ないかもしれないが、京成本線区間の利用者増と印旛日医大から成田空港までの純増と北総鉄道に払う線路使用料が収入配分で相殺され、スカイライナーの線路使用料の支払いが免除されているので京成はコロナ禍前は十分な利益を得ていたはずだ。
しかし、現在はコロナ禍前にインバウンド需要に大きく依存する経営にシフトしたことが裏目に出て大手私鉄の中でコロナ禍による打撃を一番大きく受けている。千葉ニュータウン鉄道の創られた赤字が解消したときに現在の不平等な線路使用を見直すことになっていたが、うやむやになる可能性がある。
スカイライナーはノンストップで北総線の線路を走行することになっていたはずなのにコロナ禍で収益が苦しくなったらスカイライナーの車両を使って北総線の駅に停車する臨時ライナーの試験運転?を始めている。スカイライナーの車両は京成本線内でもイブニングライナーとモーニングライナーの名称で使用されている。
臨時ライナーはアクセス特急とは異なり、特急券を買わなければ乗れないので乗り換わりを前提にした収入配分の対象外なのだろうが、北総線の本来顧客を奪うことになる。もはや、スカイライナーが北総線の駅に停車しないから北総鉄道の経営に影響を与えないというごはん論法は通用しない。しかも、アクセス特急よりスカイライナーの運行本数が多いという事実を考えれば、運行本数に見合う線路使用料を北総鉄道が京成に対して請求することは権利であるだけでなく、義務だろう。
北総鉄道が京成からスカイライナーの線路使用料を徴収しないことは、得べかりし利益の放棄に当たり、損害賠償の対象になるはずだ。株主代表訴訟を行う価値がある。それを避けたいなら、京成は北総鉄道の残りの株式を買い取って完全子会社にするしかないのではないだろうか。
京成は成田空港線の認可時の公聴会で、もし北総線の運賃を下げたら京成本線の運賃を値上げしなければならなくなると説明し、内部補助を真っ向から否定していたが、現実には、スカイライナーの線路使用料の免除やアクセス特急の収入配分で京成が北総鉄道から内部補助を受けていると言える。
千葉ニュータウン鉄道を再考する
北総鉄道の経営の脱線は公団線を千葉ニュータウン鉄道に譲渡したときに始まったと考えられる。鉄道局は千葉ニュータウン鉄道が公団から地位を継承したという説明をしているが、本来、地位の継承や相続は、法律上すべての権利義務を継承した場合に限り認められるものだ。公団の債務を一切引き継がず、県から巨額の補助金をもらって第三者が鉄道資産を買収しただけのはずだ。
北総鉄道の運輸収入全額を線路使用料として徴収するというスキームは旧法から鉄道事業法に移行したときの暫定措置として認められた一身専属権的権利と考えるべきもので事業分割に当たらない千葉ニュータウン鉄道への譲渡に適用するのは法律上無理がある。まして、印旛車両基地の使用料の支払いに至っては、公団時代に北総鉄道と公団が締結した未履行の覚書を根拠にしている。印旛車両基地は取得した鉄道資産の一部であり、線路使用料の中に内包されていると考えるべきだものだ。
車庫使用料の徴収が正当な権利なら、期限を切って徴収する必要はなく、北総鉄道が印旛車両基地を使い続ける限り、千葉ニュータウン鉄道は線路使用料とは別に北総鉄道から車庫使用料を取り続けるべきだろう。そうしないのは車庫使用料の徴収が特例だという認識があるからだと思う。
公団線は本来、北総鉄道が買収するべきだったはずだ。公団線の売却時に北総鉄道は130億円の余裕資金を保有していた。しかし、この資金は京成への預金(消費寄託金)となっていた。原資は京成からの貸付だと考えられる。つまり、北総鉄道に貸付けた資金を預金として全額吸い上げていたことになる。
吸い上げた資金が原資となって千葉ニュータウン鉄道に貸付けられて公団の買収資金150億円(譲渡価格193億円-県からの補助金43億円)に充てれたものと推測される。
北総鉄道自身、北総鉄道の買収を検討していたことを認めており、もし、北総鉄道が買収していれば、取得した鉄道資産の減価償却により法人税の流出を抑えることで内部留保を高めて財務体質を強化することができたであろうと考えられる。
しかし、京成は自社の収益性を優先して公団のスキームを継承するために千葉ニュータウン鉄道というペーパーカンパニーを設置して買収することにしたのだろう。そして、自社が第1種鉄道事業者になることを避ける目的もあったのだろう。こうした目的を達成するためには鉄道局の後ろ盾(法解釈)が必須だ。京成と鉄道局が一体となって現在のスキーム(悪だくみ)を完成させたのだろう。
私はかつて、千葉ニュータウン鉄道の会社概要を入手するために押上の京成の旧本社を訪れたことがある。受付で警備の担当者に千葉ニュータウン鉄道の事務所のあるフロアーを尋ねたら、彼はセロケースに入った一覧表を見ながらそんな企業はありませんと答えたことを今でも覚えている。しかし、本社の企画に電話してくれて若い社員が受付までやって来て別室で説明したいと言ったが、断わってそこを後にした。
後日、千葉ニュータウン鉄道の総務担当課長(京成の広報部門の社員が兼務)と電話で話してなぜ事務所がないのか尋ねたら、そんなことしたら金がかかるでしょという返答が京成の企業体質を表しているようで印象的だった。会話の中で、当社はリスクを取ってやっていると言っていたが、リスクの意味が違うのではないだろうかと思った。さらに、御社は公共交通事業を担う会社でしょと投げかけたら、それは、そちらの見解でしょという返答が帰って来て呆れてしまった。どうして、京成はこんなに強気の発言ができるのか不思議に感じたことを覚えている。特殊な会社なのだろう。
次の公団線事業譲渡についての認可前のプレスリリースを改めて読み返してみると鉄道局と京成が一体となってスキーム(悪だくみ)をすすめていたことがわかる。公団とペーパーカンパニーの千葉ニュータウン鉄道が連名でプレス発表を行っていることを見逃していた。お人好しの私は、当時、鉄道局が千葉ニュータウン鉄道がペーパーカンパニーであることを知らないのだと思い込んでいた。まさか、悪だくみの当事者だったとは思いもしなかった。
プレス発表先のメディアもよく見れば、お友達メディアばかりだ。譲渡対象資産の中には印旛車両基地(停車場設備)と車両(40両)が明記されており、公団線時代には二つとも線路使用料に含まれていたことがわかる。
「北総・公団線は、千葉ニュータウンと都心を結ぶ唯一の公共交通機関」と表現しているので鉄道局は、北総鉄道を千葉ニュータウン地域の独占事業者として容認していることがわかる。
「成田新高速鉄道事業が具体化し、将来、北総・公団線を利用したスカイライナーの運行が予定されることとなったことから、その運行主体である京成グループへの事業譲渡の可能性についても、国土交通省や千葉県と協議しながら検討を進めてきました。」とあり、成田空港線が鉄道局、県、京成が一体となって進めてきたスキームであることがわかる。
かくして「京成グループの一体的な運営により事業の安定的な経営を図ることが望ましいとの結論に達し…」実態のないペーパーカンパニーである千葉ニュータウン鉄道に事業譲渡することで基本的合意したという役所のもっともらしい作文は、今、読み返すといかにも空々しい。