東洋経済オンラインに北総線の値下げについて北実会と関係が深い大学の先生が書いた記事が掲載されている。これまでも同じメディアに北総線の運賃問題に関する記事を投稿しており、北実会の考えをメディアを通じて伝える意図があるのだろう。
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記事のタイトルとは裏腹に北実会が事業者との戦線縮小もしくは融和をはかっているように見える。記事の中に2022年10月からの北総線の値下げについて北実会の考えが示されている。
最高裁まで北総線の運賃の値下げを争ったのに通学定期の値下げで矛を収めることになりそうだ。これまで世間並みの運賃をめざして活動してきたのではなかったのだろうか。私は、上告の準備書面を見る機会があったので関係者に上告を止めるよう提案したことがあるが、最後まで戦うという返事だった。
今回の値下げは、彼らにとって成果と言える内容だったのだろうか。結局、沿線住民の期待を煽っただけで市民の交通利便性は向上するどころか白井については低下しているのが現状だ。最終的な審判は市民に委ねられている。
彼らが支援してきた北総線の並行バスも利用者の伸び悩みとコロナの影響で事業者救済の趣旨が強いものに変質しており、現状以上の発展は望めない状況だ。
バス事業者の支援と北総鉄道(京成)への忖度からコミュニティバスの新鎌ヶ谷駅の乗り入れが廃止された感が否めない。新鎌ヶ谷駅までのルートが並行バスに譲渡された形だ。利用者の多い西白井駅⇔新鎌ヶ谷駅のコミュニティバスルートの廃止により並行バスの利用者は増えることになっただろう。
しかし、並行バスの便数は1時間に1本程度しかなく、コミュニティバスの便がなくなったことで西白井駅から新鎌ヶ谷駅までの全体の便数は減少しているのが現状だ。しかも、西白井駅以外のコミュニティバスのバス停から乗車していた利用者は切り捨てられた形のままだ。高齢者の中にはバスの利用を諦めた人もいることだろう。
市も議員も北総線の値下げやコミュニティバス問題について生の声を拾う姿勢がない。おそらく、聞きたくないのだろう。これまで散々、北総鉄道を批判していた議員が手のひらを返したかのように急に信者のような発信をしている。やはり、政治家は信じられないという思いを抱いている市民がいるのではないだろうか。
一方、西白井駅⇔新鎌ヶ谷駅のルートの廃止により北総線の利用者の増加を事業者(京成)と市が期待したことは想像に難くない。西白井駅⇔新鎌ヶ谷駅のルートの廃止と同時にコミュニティバスの運行本数を1.5倍に増やしたのは、コロナで採算が悪化している路線バス事業者の救済が目的だったのだろう。コミュニティバスの経費が路線バス事業者の支援につながっている可能性がある。
コミュニティバスの新しいルートが今まで以上に利用者の利便性を無視した北総線や路線バスに配慮したものとなっており、とても利用する気が起こらないレベルになっている。最近、市内で見かけるコミュニティバスに二人以上乗車しているのを私は目撃したことがない。わざわざバスに乗るより駅まで歩いた方が近いルートすら存在する。コミュニティバスはこのまま行けば、そして誰も乗らなくなったということになりかねない状況にあるのではないだろうか。
🔗2021年8月2日からのナッシー号のルート改正の不都合な事実(2)に書いたが、1.5倍の増便にもかかわらずルート改正後の収支率が19.04%から16%に下がる見込みだと市は説明している。普通なら議会で反対意見が出てもおかしくないのにそうした声が議員の議会報告に載っているのを見たことがない。
おそらく、議員はルート改正が事業者の救済が目的であるという説明を市から受けているのだろう。過去には北総線の値下げに超党派で臨むと喧伝していたが、実行されていない。今回の議員の対応が超党派による団結だとすれば結局、最後は選挙しか彼らの頭の中にはないのだろうと思わざるを得ない。
東京の荒川区では、区からの運行経費の補助がないため京成バスのコミュニティバスが3月に廃止されている。白井もいずれ、コミュニティバスの補助を廃止しなければならない日が来るだろう。
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市は「収支率が減少することについては、コミュニティバスは交通空白地域を担うバスであり、収支率のみを考慮して運行しているわけでないことや、コミュニティバスだけを考えるのではなく、他の交通手段も考慮し、市全体の交通ネットワークを持続可能なものとしていくこととしていますので、継続的に公共交通機関の利用を推進していくことで対応したいと考えております。」と苦しい説明をしているが、図らずも事業者視点の本音が出ている。
しかし、利用者がほとんどいないような状況ならコミュニティバスを廃止して交通空白地域のみを対象にしたオンデマンドバスにするべきなのかもしれない。それに交通空白地域と考えられる地域の人々も実際にはバスや電車を利用するより車が便利という人が多いのではないだろうか。
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もし、反論があるなら、コミュニティバスの現在の利用状況と収支率、運行経費を公報や議会報告を通して市民に情報公開してほしい。選挙対策だけで中身のない議員の議会報告はほとんどゴミ箱行きになっていることだろう。
市のトップや議員は、市民の声に耳を傾けたり、バスの利用実態に対応した政策を取ることで事業者の不利益になることを恐れているのではないだろうか。結局、選挙しか頭にないのだろう。
北実会は、今回の値下げを北総線内のメタボ型運賃の是正につながると評価しているようだが、そんな事実はないように思う。そもそも、北総線の運賃をメタボ型として追及してきたこと自体がミスリードだったのではないだろうか。
運賃カーブだけ見て区間ごとの運賃の問題点を見過ごしてきたのではないだろうか。メタボ型ということより第2区間の運賃が異常に高いということが一番の問題で是正されるべき問題だ。第2区間の運賃が全体の運賃の底上げにつながっており、実態としてもカーブの曲線が改善されたのではなく、下にスライドしただけという印象だ。千葉ニュータウン中央駅の値下げが一番大きいためメタボカーブが少し緩和されたように見えるだけで北総線の運賃体系は何も変わっていない。
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北実会は、現在の室谷正裕社長を評価しているようで「これまで北総の社長はCNRの社長、京成の取締役も兼務していたが、現在の室谷正裕社長はCNR、京成の役員を兼務していない。すなわち、立場的に言えば、北総社長が北総第一の経営を行えるようになったといえる。…現在の室谷社長は国交省OBであり、そのことも批判の対象になってきたが、京成、CNRの役員兼務を解かれて以降、北実会との交流もしており、その姿勢は周りを驚かせている。」と筆者は記事の中で書いている。
しかし、京成には、依然として国土交通省のOBが天下り(わたり)として重要なポストに就いており、京成と国の関係は変化していない。室谷社長がCNR、京成の役員を兼務していないことは特に評価するほどの問題ではないように思える。逆に室谷社長がCNRの役員を兼務していないことは株主代表訴訟の観点からしたら本人にとって望ましい可能性もある。そもそも、室谷社長は京成と国土交通省からの雇われ社長に過ぎず、北実会との交流が市民の交通利便性の改善につながると考えるのは短絡過ぎるように思う。
私は、組織の内部からこれまで何人もの天下りの人間を間近に見てきた経験がある。接すれば、みんな悪い人ではなかったが、彼らは自分の立ち位置を弁えていて天下り先で敵を作らないことが習性になっている。リーダーシップを役所や天下り先から期待されているわけではない。求められているのは事業者と役所の調整だ。在任期間をうまくやり過ごすことが彼らに求められているだけだ。だから、北実会の評価は過大なように感じる。
北総線の運賃問題は前進したのではなく、停止したのではないだろうか。私は、北総線の運賃問題より市民の交通利便性の改善が急務だと考えている。