· 

値下げをしなくても北総線の千葉ニュータウンの運賃は下げられる?

 北総線の値下げで千葉ニュータウンの交通事情は変わっただろうか。新聞に踊る「日本一高い」、「初乗り運賃190円」、「通学定期64%引き」という文字を見て千葉ニュータウンに住んでいない人々はどう受け止めただろうか。

 

 ウクライナに住んでいない人間には、ロシアの侵攻に耐えているウクライナの人々の本当の苦しみを映像から実感することは難しいが、誰しもなんかの役に立ちたい、早く理不尽な攻撃がなくなってほしいと思っていることだろう。

 

次元のまったく異なる比較で恐縮だし、場合によっては不謹慎かもしれない。ただ、そこに住む住民の気持ちは、ウクライナだろうが、千葉ニュータウンだろうが、住んでいる住民にしかわからない。

 

今回の北総線の値下げの恩恵を実感しているのは、通学生とその親だけだろう。一部の住民にとっては64.7%の値下げは、この物価高の中で大歓迎だろう。

 

しかし、今回の通学定期で値下げの恩恵を受ける人々の実数を自治体は公表していない。例えば、白井市に北総線を利用している通学生もしくは運賃が下がれば北総線を使う予定の通学生がどれくらいいるのだろうか。こうしたデータを行政も市民団体も持ってもいないし、調べもしていないだろう。事業者からデータの提供を受けるという発想すらないかもしれない。あるいはそうした質問をして事業者の機嫌を損ねることを恐れているのかもしれない。だから市民に対して値下げの効果を具体的な数字を示して説明することはできないだろう。

 

街づくりや人口増に対するあいまいな期待の言葉しか市や議員のメッセージからは出てこない。通学定期の大幅値下げが住民の転出の抑制にどれだけ効果があるのか誰にもわからないことだろう。最近の政治に定番のやっている感を出すためにメッセージを発しているようにしか見えない。

 

高額の通学定期に苦しんでいた利用者には、とても大きなクリスマス前のプレゼントになっただろうが、値下げ前に利用者の声を聞いて値下げの内容を決めたわけではないことは明らかだ。反対しづらく、なるべく事業者にとって負担の少ない、効果的な値下げが通学定期の大幅値下げの演出だったのだろう。

 

事業者の通学定期による減収は数%にすぎないが、事業者や政治家、市民団体にとって成果を示しやすい効果的な値下げだったことだろう。事業者の協力を得やすい内容に安易に流された妥協の産物のように思う。値下げ後の結果についてきっと誰も責任を取らないことだろう。ひょっとすると値下げ後の市民の協力に責任転嫁するつもりなのかもしれない。彼らは来年の統一選挙前の見栄えのいい値下げという事実がほしかっただけなのだろう。

 

👉北総鉄道の通学定期の値下げについて誰もちゃんと分析しないので調べてみた!

 

普通運賃の値下げには、初乗り運賃190円の説明がメディアや政治家から選択的に発信されている。しかも、西白井駅周辺に住んでいる議員が初乗り運賃190円を強調している。西白井から新鎌ヶ谷駅までの一駅の運賃は、309円から30円下がって279円になっただけだ。

 

西白井駅から新鎌ヶ谷駅までの営業キロ数は3.1kmになっているが、0.1km99mなのか、50mなのか不明だ。しかし、鉄道の運賃キロは、km単位で切り上げられるので西白井駅から新鎌ヶ谷駅までの運賃キロ数は、初乗り運賃ではなく、4km以上の2ランク目の運賃が適用されている。

 

👉営業キロ~営業線の長さを示すキロ程のことを「営業キロ」といい、運賃計算などの基礎になっています。「1.7km」というように、時刻表には起点からのキロ程が100m単位まで表示されています。これは実測に基づいて、100m未満の端数を四捨五入しているからです。一方、運賃・料金を計算する場合の駅間の営業キロは、キロ単位です。起点からのキロ程を使って計算するとき、1kmに満たない端数は1kmに切り上げます。このキロ数によって普通運賃、定期(通勤・通学)運賃の額を計算します。

  

千葉ニュータウン内の新鎌ヶ谷駅から千葉ニュータウン中央駅までの一駅間の距離に端数が付いているのは不思議なことに西白井駅⇔新鎌ヶ谷駅間だけだ。西白井駅⇔白井駅と白井駅⇔小室はジャスト2.0km、小室⇔千葉ニュータウン中央駅がジャスト4.0kmになっている。西白井駅⇔新鎌ヶ谷駅間の0.1km4駅すべての運賃に影響を与えている。だから、端数は西白井駅だけで充分だったのだろう。もし、他の駅にも端数が付いていればこうした疑問を抱くこともなかったかもしれない。実測値がジャストの数字ということはないだろうから2.0kmや4.0kmではなく、1.95kmや3.95kmの可能性がある。

 

とても偶然とは思えない。この0.1kmの違いで新鎌ヶ谷駅から千葉ニュータウン中央駅までの各駅の運賃キロ数がすべてワンランクアップしている。

 

鉄道の営業キロは、実測ということになっているが、実際には「終端駅の端っこ」や「駅長室の場所」が基準になっているそうだ。

 

しかし、「営業キロの設定は鉄道事業者の裁量の範囲内」という最高裁の判例が出ていて、事業者が任意に決めても違法にはならない。

 

👉鉄道運賃の基準「営業キロ」は、駅のどこから計測している?~新幹線の営業キロについては、当時の国鉄が「新幹線は東海道線の複々線」という扱いに基づいて設定したという。しかし「実際の距離とかけ離れており、運賃を取り過ぎている」として、1972年にある利用者が裁判を起こし差額の返還を求めた。たった200円の返還を求めたこの裁判は最高裁まで争われた。結果として「営業キロの設定は鉄道事業者の裁量の範囲内」と、国鉄の主張が認められた。

 

なぜ新鎌ヶ谷駅から西白井駅までの営業キロ数を3.1kmにしたのだろうかという疑問が湧く。千葉ニュータウン中央駅までの他の駅には端数が付いていないので不自然さが際立っているように感じる。後に疑問に思った利用者から文句を付けられても法律的に問題ないのならできるだけ高い運賃に設定しておくのが事業者の戦略として正しいのかもしれない。

 

もし、今回の値下げが新鎌ヶ谷駅から西白井駅までの営業キロ数の変更(3.1km→3.0km)を伴うものであれば、仮に普通運賃が下がらなくても千葉ニュータウン中央駅までの各駅の運賃キロがワンランク下がることになるので沿線住民の負担が大幅に軽減されていただろう。

 

しかし、そうなれば、新鎌ヶ谷駅で東武線に乗換える利用者が大幅に増える可能性がある。北総鉄道(京成)には絶対に受け入れられない選択だろう。新京成の利用者も増えるかもしれないが、利便性は新鎌ヶ谷駅から船橋駅まで12(急行で8)の東武線に軍配が上がるだろう。

 

京成は松戸や西日暮里では簡単に乗換えられるが、これは例外で上野、八幡、船橋、津田沼、佐倉の駅名には京成の名前が冠されているとおり、JRの駅から離れたところに駅が設置されているので乗換えがとても不便だ。北総線の新鎌ヶ谷駅は専用改札を通り抜けるだけで新京成線とつながっているが、東武線の改札からは離れたところに設置されている。東松戸駅もJRの駅から離れており、JRの改札までの急な階段は急いでいるときは負担になる。何か意地悪をされていうような気分になる。北総新鎌ヶ谷駅、北総東松戸駅と呼称した方がいいのかもしれない。

 

京成には他社線との乗換えで利用者の利便性をアップして集客を増やすという発想はなく、利用者を自線もしくはグループの交通機関に囲い込む経営戦略をとっている。京成の駅のロータリーで客待ちをしていたスポーツクラブの手配したツアーバスの件で京成から苦情を受けたというスポーツクラブの話を聞いたことがある。彼らはテリトリー侵害にとても敏感だ。

 

私も新鎌ヶ谷駅のロータリーで客待ちしていた白井メモリアルパークの貸切バスが京成の乗合バスにいつもの停車位置を占有される嫌がらせを受けているのを目撃したことがある。その一方で京成のバス停にグループ会社のツアーバスが停車して客待ちしていたのを目撃したことがある。これ違法でしょう。

 

👉領海侵犯か

 

そのくせ、新鎌ヶ谷駅のロータリーでは京成バスは法令違反を繰り返していた。私は、関東陸運局に文書で改善を求めたことがあるが、後に彼らが癒着していることを知った。

 

👉西白井線停留所が道路交通法第44条違反の訳(2)

 

こんな事業者と街づくりのための連携協定を結ぶ白井市の矜持のなさに呆れるしかない。法令違反や不公平を見逃す行政の意識の低さを感じずにいられない。

 

もしも新鎌ヶ谷駅から西白井駅までの営業キロ数が3.0kmだったら今回の値下げで新鎌ヶ谷駅から千葉ニュータウン中央駅間の各駅までの運賃がどうなっていたかという試算をしてみた。西白井駅の運賃は、現状、初乗り運賃の5割増しになっている。0.1kmの違いの大きさに呆れるしかない。

 

試算の結果は、この区間の平均運賃は値下げ後の365円からさらに59円下がり306円になった。西白井駅までが91円、他の駅は約50円さらに安くなっていただろう。

 

 

 北総線は本来、千葉ニュータウン地区と都心を結ぶ電車だが、今回の値下げで本当に北総線に乗って都心に出かけたいと思うような改善の一歩になっただろうか。次の表を見れば、答えは明らかだろう。

 

 👉北総線の本当の初乗り運賃~東急電鉄の値上げと西白井駅の運賃

 

通勤利用者は、非正規雇用者でなければ、たいていの場合、会社から交通費が全額支給されるだろうから今回の値下げを彼らは冷めた目で見ているはずだ。そして、一般の市民はこれまで通り、新鎌ヶ谷駅まではマイカーを使い、新鎌ヶ谷駅から先は東武線や新京成線を利用するという選択肢に変化はないだろう。

 

北総鉄道の累積赤字が解消しても運賃が高額で不便な千葉ニュータウンという現実は変わらない。事業者には長期資金収支がマイナスだという値下げできない口実がまだ残されている。通学生も社会に出て給料が大きく上がることが期待できなければ地区外に住替えて働くという選択をすることになるだろう。通学定期が大幅に下がったお礼に北総線を利用し続けようということにはならないだろう。

 

この地区で既に高齢期に入った人々は、マイカーを運転できる間は電車に乗らずにマイカーで移動するということになるだろう。自治体が事業者の利益を優先して自ら市民のマイカーから公共交通へのシフトを阻んでいるようなものだ。

 

おそらく、成田空港線で京成の利益が増えて株主の受け取る配当金が増えても北総線に還元されることなく、時間の経過とともに北総線の利用者は減少し、鉄道の維持を理由に運賃が値上げされることになると私は思っている。成田空港線の認可時には内部補助を否定しておいてコロナ禍で京成こそ北総鉄道の内部補助が京成の利益に貢献していたことがはからずも露呈している。北総線の収益が悪化したときは、またぞろ内部補助を理由にすることになるだろう。

 

沿線住民は北総線に頼らない準備をしておく必要がある。それは域外への住替えも視野に入る。市民の高齢化が進み、これから鉄道を利用する機会はどんどん減少して行くことになる。人口減少の中で公共交通は鉄道に限らず今後、利用者が減り、減便を余儀なくされることになるだろう。北総線の列車本数が土休日だけでなく、平日もスカイライナーとアクセス特急の本数に逆転される日もそう遠くないだろう。そのときにはスカイライナーとアクセス特急のおかげで鉄道が維持できていると恩を着せられることになるかもしれない。

 

笑ってしまうのが、北総線沿線活性化トレインの北総線沿線地域活性化協議会のラッピング広告だ。そこには「千葉ニュータウン中央駅から日本橋まで最速41分」というキャッチフレーズが書かれている。終点の印旛日本医大から日本橋までの運賃は今回の値下げで26円しか下がっていない。片道1,180円だ。6か月定期は259,800円もかかる。この駅の住民は見捨てられたも同然だ。小室駅の二の舞かもしれない。

 

西白井駅も依然として日本橋まで915円もかかる。97円の値下げの意味を見出せない市民の方が多いだろう。6か月定期も201,640円もかかる。

 

結局、千葉ニュータウン地区からの脱北(北総線からの脱出)につながる可能性のある西白井駅から新鎌ヶ谷駅までの運賃と成田空港線の運賃に影響する印旛日本医大までの通し運賃を変えたくないというのが京成の考えなのだろう。京成は希少部位の肉を差し出して骨を切らずに済んだようだ。

 

駅前のマンションの購入を考えている人は、最速41分でいくら運賃がかかるか調べておいた方がいいだろう。転職やリストラ、親の介護のよる離職のリスクまで考えておかねばならない生きづらい社会になっていることを忘れてはいけない。