事例(交通②)

運転士が足りない…路線バスが抱える、赤字以上に深刻な問題バス運転士の多くは既に退職した団塊の世代を再雇用してまかなっているのが現状。なんと5年後にはバスの運転士のほぼ全員が70代になるといわれている。ある地方バス事業者は、運転士不足に苦しむ現状をこう吐露する。「赤字か黒字かで路線の存廃を考えることはありません。赤字路線であっても地域の足として絶対に維持したい。ですが、運転士が足りなければどうしようもない。仕方なく利用が少ない路線から廃止せざるを得ないのが現状です」…「例えば輸送量の多い主要路線を軸として、そこに接続するマイクロバスやタクシーなどを活用する。運転士不足の対策として路線の効率化も欠かせません。利用者に乗り換えを強いることになっても、公共交通がゼロになるよりはよほどいい。それだけの覚悟を持つ必要があるでしょう」…また、岡山県の宇野自動車では、回送を極力減らすことで民間企業で日本最安運賃を実現。1㎞あたりの平均運賃は全国で約40円前後だが、同社はなんと23円20銭だ。「回送はフルコスト走行ですから最大の無駄。弊社では回送距離を他社の約10分の1ほどに抑えています。安い運賃で輸送サービスを提供することで、沿線に施設や住宅が増えて利用者も増えるという好循環を生み出せれば」…「一番大切なのは沿線に暮らす人たちが当事者意識を持つこと」

( 2018年3月19日 日刊SPA) 

両備「赤字バス廃止」が突き付けた重い意味 地方公共交通への競争原理導入は適切なのか~岡山県中南部に広域に路線バスを運行する両備HDもご多分に漏れず利用者が減り、路線バスは7割が赤字路線となっている。これを高速バスなどの採算部門と一部岡山市中心部などの利益でカバーする、いわゆる「内部補助」で維持している実態がある。ちなみに内部補助については、考えようによっては利用者の多い路線の運賃負担で利用者の少ない路線の赤字を賄っているという実態から、運賃負担の公平性の議論になることもあるが、筆者は、生活交通としてのバス路線が単独で収益事業として成立することは非常に難しい現状からすると、広く地域の交通ネットワークの維持・利便性確保のために行政も含めみんなで負担し合うという観点を持てば、容認されることと考えている。…両備HDの提起を、超高齢社会を迎える中で、交通ネットワークをどう維持していくのかを議論するきっかけにすべきである。…今はまだマイカーを運転できる人が多く、バスがなくなると困るという人は実質あまりいない。ただ、何もしなければ高齢化が進み、車を運転できない人が増えるであろう5年後、10年後にはバスがなくなっているかもしれない。行政は今ある資源を有効活用し、将来に維持し続けられる仕組みをつくる必要がある。一度崩壊してしまうと再構築は容易でない。住民もバスは事業者が走らせるものだという人任せの意識でなく、一人ひとりが自分のこととして考えてほしい。そして筆者の持論だが、行政、事業者、住民が本音で話し合い、信頼関係を築けたところがより良い交通ネットワークを構築できるのである。

(2018年03月22日 東洋経済)

バス業界の風雲児、規模拡大の裏に別の狙い~みちのりHDの発足当初は、経営不振のバス会社を買収していたが、近年は経営面で問題はないものの親会社の経営構想から外れた会社を買収するようになってきた。たとえば、2015年に三菱グループから買収した湘南モノレール、2016年に東武鉄道から買収した東野交通がこの例に当てはまる。今回の日立電鉄交通サービスも「経営的には問題ない」(みちのりHD)としている。…規模拡大は、今までのバス会社の枠組みを超えた取り組みを可能にする。たとえば、関東自動車、東野交通、茨城交通の3社は共同企画として「高速バスで行く路線バスの旅」を12月からスタートする。東京から栃木県益子町まで茨城交通の高速バス、益子町から東野交通の路線バスで宇都宮に出て、宇都宮では関東自動車の路線バスで宇都宮市内観光を行う。広域でバス網を展開するみちのりHDならではの企画だ。…一方で、福島交通が他社の事例を参考にしていることもある。それは福島交通に続いてグループ入りした茨城交通が行う「定期券の出張販売」だ。…茨城交通が成功しているという話を聞き、「これはあらためてやってみる価値がある」と、取り組みを強化。訪問していない学校をリストアップし、社員が学校に出向いて生徒に定期券の申込書を配布する。効果はてきめん。少子高齢化で減少中の通学定期利用者は、回復とまではいかないものの、減少ペースが緩やかになった。

(2017年11月27日 東洋経済)