事例(社会問題②)

介護保険が知らぬ間に保険ではなくなる事実~売掛金のほとんどは国から回収するため、貸し倒れの危険はないそんな介護保険事業所。しかし、3年に一度介護報酬が改定され、5年に一度介護保険制度が見直されるため、介護事業所の屋台骨は数年ごとに揺らされる宿命を持つ。その上、就業希望者の減少によりここ10年は採用活動に四苦八苦している事業所が少なくない。現場が回らずに、通常報酬が減少し、加算と呼ばれるプラスアルファの報酬を獲得していかないと経営が行き詰る状況となっている。これは、良い事業所は加算をとって生き残ってもらえればそれで結構、うまくいっていない事業所は退場して結構という政策そのものである。多様性があり地域の特性を生かした介護保険の事業所は社会のセーフティーセットを思われていたが、どうやら勝手が違ってきたようだ。…制度がスタートしてから早16年目。これまでに数度の改正がされている。社会保障費の削減問題も裏にあり、徐々に利用できる人に制限がかかってきているようだ。あなたやあなたの周りの方が利用する時に、介護保険は利用可能なサービスであるだろうか。…地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化を実現するために改正が行われた。具体的には、平成17年改正で創設された介護予防を平成29年度末までに介護保険から市町村の地域事業に移行するというものである。つまりは、介護保険は使えないということになる。今回の改正からいよいよ介護保険が保険ではなくなりはじめた。市町村が同様のサービスを提供することになるが、財源は市町村次第となるので、料金が上がるか、量や質を落として同程度の料金で継続するかという瀬戸際になりかねない。…地域という意味では、介護サービスの提供をボランティアやNPO法人にその役割を期待している。介護福祉業界は、そもそもボランティアに助けてもらう部分が多かった。それはお互いさまという気持ちや何か貢献したいという個々人の自発的な気持ちによるものである。しかし、制度自体が人の気持ち前提で設計されることは不自然に感じる。例えば、働く世代が会社を休んでまでボランティアができるか言われれば難しいであろう。年に単発で数回程度であればそれも可能であろうが、制度で組み込まれれば定期的にボランティアを行うという話になる。単なるそこにいるだけのボランティアから介助ができるボランティアへと変化を要求されることだって想定される。ボランティアと仕事の両立、もちろん、自分の子育てや親の面倒だって見なくてはいけない。これからの生活は心構えだけでもしておかないと一寸先は闇となる。…仕事に脂がのりいい感じになった40歳代に、突如、世間を騒がせている介護離職問題が自分の問題となって突きつけられたら。いままで他人事だと思っていた介護が、いざ自分の身に降りかかった時に介護保険ってこんなに使い勝手の悪い制度だったのかとならないように改正の行方をしっかりと監視してほしい。

(2016年04月29日 BLOGOS)

都心の優良物件も大暴落! マンション神話を崩壊させる 2020年問題」は、本当だった~東京・新宿区で民間初の分譲マンション「四谷コーポラス」が売り出されたのは1956年のこと。それから約60年の時を経て、日本は全国に約600万戸を抱えるマンション大国となった。

中でも、全国のマンションの4分の1以上が集中、日本一のマンションストック数(168万戸)を誇るのが東京である。…きっかけは約1年前。都市整備局が中心となって不動産のプロたちを一堂に結集して、「マンションの2020年問題」について話し合う審議会を始めたことにある。審議会の正式名称は、東京都住宅政策審議会。…そもそも審議会が開催されることになったのは、都の人口が2020年にピークを迎えることへの危機感があったから。さらに、全国的に世帯主の年齢が60歳以上のマンションが約5割を占めるなど、マンション住民の高齢化が急速に進展しているとの事情もあった。…「分譲業者が、外国企業にまとめて売却してしまうと、そのマンションの区分所有者の大半を外国企業が占める(中略)その多くは管理費や修繕積立金について認識が薄く、所有者となってからまったく支払わないなど、深刻な滞納問題が生じている。このままでは管理組合の財政そのものが破綻してしまう可能性がある」…審議会で特に問題視されたのが、「管理不全マンション」なるものだ。…「年金生活者だからという理由で、管理費を滞納している住民も出始めていた」」(岡田氏) このままいけば、住民が高齢化するとともに、マンションも「老い」に抗うことなく、死を待つばかり……岡田氏は恐ろしくなり、売れるうちに売ったほうがいいと、1000万円台でも手放す決意をした――。…「マンション住民の高齢化が急激に進んでいます。日本全国ですでに、マンション世帯主の約2割は70歳以上です。一方で、自分のマンションにどんな人が住んでいるか、管理組合がどうなっているか、きちんと把握している人は少ない。管理費の滞納が起き、空き部屋が発生、やがて共用廊下の電気すら消え始めた頃に初めて、自分の住むマンションの危機に気付くわけです。しかし、そのときはマンション価格が暴落の一歩手前。こうした事例が都会のマンションにも広がりつつある。首都圏郊外では200万~300万円でしか売れない物件まで出てきています」…国土交通省が昨年発表した「マンション総合調査」の結果は衝撃的だ。同調査によれば、「3ヵ月以上の管理費の滞納がある」と答えた管理組合の数が、日本全国のマンションのなんと約4割。スラム化の予兆が多くのマンションに出現していることがわかる。…富裕層や若者に人気のタワーマンションの住民とて、「例外」ではない。むしろ、より深刻な「管理不全現象」が勃発している。…タワーマンションを巡っては、「日本人vs.中国人」だけではなく、「上層階vs.低層階」の対立が暗い影を落としているから問題は根深い。というのも、タワーマンションは高層階に住むのが高所得者、低層階にはそこまでゆとりのない層といった風に、住民の所得格差が大きいという特徴がある。…中国人、高層階、低層階という3者のバトルがマンション自治を崩壊させ、マンションそのものの価値を落としていく。そんな「負の連鎖」がいままさに巻き起こり始めているわけだ。…かつて夢のマイホームとして人気を博し、サラリーマン家庭が殺到したニュータウンのマンションは「冬枯れ物件」に成り果てた。同じことがこれからは、都心の優良物件へと広がっていく。先に逃げた者ほど被る損は少なくなる。残された時間はすでに少ない。

(2015年10月20日 現代ビジネス)

貧困問題を解消するには、空き家を活用せよ 「下流老人」著者が提言する格差是正の処方箋~私が所属するNPO法人「ほっとプラス」には年間500件以上の相談が寄せられるが、家賃の支払いで追い詰められているケースが非常に多い。…データで見ても、生活困窮者にとって家賃の負担は大きな重荷になっている。たとえば、2014年12月にビッグイシュー基金の住宅政策提案・検討委員会が実施した調査「若者の住宅問題」(首都圏と関西圏に住む20~39歳、未婚、200万円未満の個人を対象)によると、手取り月収から住宅費を差し引いた金額であるアフター・ハウジング・インカムがマイナスになる人が27.8%も存在する。プラスのグループにおいても「0~5万円未満」が17.0%、「5万~10万円」が32.9%と、低水準の人たちが多い。若者に関していえば、親と同居する理由で約半数を占めるのは、「家賃が負担できないから」であった。低所得であればあるほど、親と同居している。そして所得が低く、親と同居しているほど結婚の予定がないと回答しており、少子化につながっている可能性もある。生活困窮者にとって住む家があるというのは、大きなよりどころとなっている。家を失ったり、家賃を支払えなくなったりすると、精神的に追い詰められてうつになる場合が多い。生活困窮者の住宅対策は非常に重要だ。ところが、現状の制度はあまりに手薄と言わざるをえない。生活保護を受ける場合に家賃として支給される住宅扶助や、昨年4月にスタートした生活困窮者自立支援法に定められた離職によって家を失う可能性がある場合の住宅確保給付金(有期)くらい。貧困に転落した人に対する救貧制度のみで、貧困転落を回避する防貧制度はないのが実情である。収入に占める住居費を1~2割に抑えられると生活に少し余裕が生まれ、より多くのおカネを教育費や老後資金に回すことができる。ではどうすればいいのか。…そこで筆者が注目しているのは空き家の活用だ。…折しも政府は3月18日、今後10年の住宅政策の指針として「住生活基本計画(全国計画)」(計画期間:2016~25年度)を閣議決定。その中で「空き家を含めた民間賃貸住宅を活用して住宅セーフティネット機能を強化」という文言が盛り込まれた。ただしその具体策については明記されていない。

(2016年04月11日 東洋経済)