「教育は平等なんかじゃない」 “学びの貧困”に苦しむ若者たち~大阪府で暮らす21歳のヒトミさん(仮名)は母子家庭で育った。小学校に入学直後、脳梗塞で倒れた母の看病や家事の手伝いのため、学校を休みがちになった。4年生のとき、借金が原因で転校手続きも取らないまま別の街へ引っ越し、学校に通えなくなったという。買い物に出る前には、計算機を使って、購入する商品の金額を書き出す。暗算が苦手で、レジでお金が足りなくなって慌てる姿を見せたくないからだ。美容院には行かない。髪を切ってもらう時、自分のことをいろいろと尋ねられるのに耐えられないからだ。同世代の友達は一人もいない。読み書きは主に独学で身につけた。その彼女がつづった文章だ。“義務教育を受けていないということは、なぜ、何をするにも息がしにくい不自由な世界なんだろうか…。教育は平等なんかじゃない。” …一方、学ぶ機会を失った人が再び学べる場所として、夜間中学がある。小学校を卒業できなかったヒトミさんも、大阪府にある夜間中学に通っている。これまで、夜間中学の生徒の大半は高齢者や外国人だったが、最近は日本人の若者も目立つという。通い始めたことで、ヒトミさんの学力は飛躍的に向上。さらに、夜間中学に通うさまざまな世代の仲間との会話にも積極的に加われるようになり、周囲の人たちとの関係も変わり始めている。「何かが変わったと思うんですけど、自分でもそれがよく分からない。でも夜間中学に来て勇気を出せるようにはなったんで、勇気かな」(ヒトミさん)しかし公立の夜間中学が設置されているのは、全国で8都府県だけ。国は今年(2017年)2月に、すべての人に学ぶ機会を確保するための法律を施行し、各県に少なくとも1校の設置を促しているが、多くの県では計画すらない状態だ。…「学びの貧困」に苦しむ人たちをどう支援していくのか。求められるのは、よりきめ細かい「受け皿」だ。例えば、夜に仕事をしていたり、小さい子どもを育てていたりすると、夜間中学に通うのは難しい。そうした人たちの受け皿として、各地に広がりつつある子ども向けの無料学習支援塾に大人を受け入れる取り組みがあってもいい。…「将来に初めて光がさし込んだ」。ヒトミさんは夜間中学に出会って、そう感じたという。学ぶことはすなわち、将来の夢や希望を抱けるようになることでもある。すべての人がそのかけがえのない機会を得られるよう、もし失っても再びその機会をつかめるよう、地道できめ細かい取り組みが求められている。
(2017年11月15日 NHK クローズアップ現代+)
中卒の若者の貧困と孤立を、生活保護は救えるか?~坪井恵子さん(56歳)は、福岡市の一般社団法人「ストリート・プロジェクト」(以下、ストプロ)で理事長を務めている。ストプロの目標は「ユース(筆者注:おおむね15-25歳)の貧困と孤立を防ぎ、解消し、自立と夢の実現を!」だ。…諸般の事情により、ストプロは2017年3月で活動を休止する。…高校を中退すると、高認に合格しても最終学歴は中卒のままだ。たとえ難関大学に入学しても、卒業するまでは中卒。もしも大学を中退したら、最終学歴は中卒のままになる。それでは就労・資格取得など、数多くの機会が大きく制約されてしまう。…「福岡市に、ストプロを信頼して、気がかりな生徒さんをつないでくださる公立高校があります。その高校の、私の知っている先生のお1人は、高校を中退しそうな生徒さんたちに求人誌を見せて、中卒で就ける職業がいかに少ないか、高校を卒業すると選択肢がどれだけ広がるか、現実を理解させているんです」…「高校生でも、学校というハコは大切です。学校に在学しているということは、本人が必要な情報や機会を、必要なときに、黙っていても提供してくれる場所にいるということなんです。それはすごいことなんだと、中退して初めて気づきます。1人のユースを、民間の1個人の好意やストプロのような団体だけで支えるのは、無理です。でも高校に在学していれば、高校では“届かない”ところを民間で支えることは、無理というわけではなくなります」…「学校の力はすごいです。学校の協力があったからこそ、本人とも自治体とも、『高校卒業』を目標として話を進めることができました」「あと、ほんの何ヵ月かで中卒か高卒かの分かれ道でしたからね。学校が動いたら、民間が何を訴えても動かない行政が、動くんです」
(2017年1月20日 ダイヤモンド・オンライン)
「限界大学」は消える!私立大定員割れの構造 差し迫る「2018年問題」、その直前対策は?~1992年に200万人を超えた18歳人口は、2008年に120万人台まで減り続け、その後横ばいで推移した。その安定期は2018年には終わりを告げる。2016年度の出生数は100万人を切っているため、おおよそ20万人が減ることになる。これは大学経営に大きな衝撃を与えるだろう。大学進学率が現在の55%前後で変わらず推移すると仮定すれば、大学進学者は10万人以上減ることになり、入学定員500人の大学が200校以上消えてしまう計算なのだ。…大学は急激に増え、私立大学は334校から604校になった。そして、新設された大学の7割強の母体は短大だった。短大側から見ると、最大500校あった短大のうち、半数以上が大学経営に進出したことになる。そして、受験バブルの恩恵を受けて、短絡的に四大化した短大が今、厳しい競争環境に晒され、学生募集に苦戦している。…2050年には1億人を下回り、出生数は60万人を下回る。そして、将来の推計人口は予測を大きく外れることはない。少子化の煽りを受ける大学及び教育機関の撤退戦は、この先もずっと続いていく。
(2017年4月28日 東洋経済)