事例(社会問題⑤)

手取り15万円、持ち家でも苦しい45歳の悲哀 非正規は「しょせんその程度の人間」呼ばわり~「業者を入れるなりして伐採しなくてはいけないと、わかってはいるんです。でも、経済的な余裕がありません」亡くなった両親が残してくれた自宅は築50年を超える。外壁にはひびが入り、風呂場のタイルもところどころ剥がれているが、修繕もままならない。…また、ヒデユキさんが勤める会社は「お得意さま第一主義」という大義名分の下、顧客からの注文に迅速に応えることを売りにしており、一部の同業他社が1日の配達時刻や回数をあらかじめ決めているのに対し、注文を受けるたびに配達に出向くというシステムを取っている。…「顧客にとっては注文した商品がすぐ届くというのは、他社にはない“価値”だと思います。でも、それは、私たち非正規労働者が、窓もない狭くて暗い商品倉庫をコマネズミのように駆けずり回ることで生み出される“価値”です」…「一定の時刻になると、自分の席に着いて顧客からの注文電話を待っているだけ」「大学を出てやっているのがこんな仕事とは情けない」…社内の健康診断では、中性脂肪や血糖値の数値が標準値を超えつつある。産業医からは「野菜を食べてください。それから、朝に納豆を食べると身体にいいですよ」とアドバイスされたが、ヒデユキさんは「野菜を食べろって簡単にいいますが、野菜は高いんですよ。それに、家の冷蔵庫はずいぶん前に壊れてしまい、買い替えるおカネもないので、“朝納豆”は無理です」とため息をつく。…普通に、あるいは普通以上に能力もやる気も、実績もある人間がどんなに望んでも、「非正規スパイラル」から抜け出すことができず、正社員には戻れない――。「働き方が選べるようになる」。1990年代に入り、そう言って、雇用の流動化を進め、非正規雇用を増やし続けた国や経済界が思い描いたのは、本当にこんな未来だったのか。…彼は「自分が契約社員であることは誰にも言えない」と言う。生まれ育った地域の絆は、非正規労働者にとってはしがらみでしかない。

(2016年08月29日 東洋経済)

「結婚できないの俺だ」日本どうすんだ!!!~国立社会保障・人口問題研究所によると、生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の比率)は直近の2010年に男性が20.1%、女性が10.6%だった。これが2035年には男性の29%、女性の19.2%に上昇する見通しだ。つまり、男性のおよそ3人に1人、女性の5人に1人が生涯未婚者となる。…2012年度の就業構造基本調査を基に大卒男性の未婚率を雇用形態別にまとめると、20~24歳の時点では雇用形態にかかわらず95%超が未婚だ。だがこれが35~39歳になると、正社員をはじめとする正規雇用者は25.3%に減少しているのに、派遣・契約社員は67.2%、パート・アルバイトは85.8%が未婚のままとなっている。女性の場合、35~39歳の未婚率は正社員39.3%、派遣・契約社員46.9%で、雇用形態と未婚率には大きな相関関係がない。…要するに結婚していないのは、「非正規雇用の男性」なのだ。この生涯未婚層が今後高齢化していくことで、主に2つの問題が顕在化してくることが確実だ。ひとつは介護の問題だ。日本では介護保険導入後も、家族による介護が少なくない。配偶者もいなければ子どももいない生涯未婚者の老後は誰がみるのか。おカネを払って介護サービスを受ければよい、というのはあまりに楽観的な考えだ。…このほかにも、未婚男性は親の介護が必要になったときに躊躇せず仕事を辞めてしまう傾向があり、自身の老後を迎えないうちに介護離職で貧困に転落するケースが起きている。…日本の場合、子どもの出生数は既婚女性の出生率(有配偶出生率)と、未婚女性が結婚する率(有配偶率)の2条件で決まる。このうち有配偶出生率は1980年以降、基本的に安定して推移している。にもかかわらず少子化が進むのは、未婚者が増えていることに原因がある。…だが人口動態的にみると、すでに結婚している人への支援はやらないよりやったほうがマシ程度のものでしかない。子どもの出生数を少しでも回復させるには、結婚していない人に結婚してもらうことのほうが、はるかに効果が高い。…婚姻率を上げるには、雇用形態にかかわらず生活するに十分な賃金を保証することと、教育や住宅にかかるコストを下げて実質的な可処分所得を増やすことが重要だとしている。ニッポンの未婚の現実と、それに対する処方箋を、そろそろ真剣に考えるべきだ。  

(2016年05月09日 東洋経済)

賃貸か購入か。住まいの決定で「損得」以上に大事なこととは もっと大事なこと?~実は賃貸住宅というのは、1つの場所に長くは暮らせない性質をもっている。…65歳で定年を迎えたとして平均寿命の80歳までの15年間、同じ物件を借り続けられる可能性は低い。賃貸住宅に住み続けるのであれば一度は必ず転居を迫られることになると、覚悟しておくべきであるといえるだろう。ところが高齢者の賃貸事情は芳しくない。入居審査の際に表だって提示されることは少ないが、家主の多くは高齢者の入居を快く思っていないのだ。その理由は以下の通りである。


・定年後の世帯は定職がないので賃料支払いが心配
・保証人の不在
・居室内での孤独死の危険性

 

…現状の入居率をご存じだろうか。2016年6月1日付けの日本経済新聞朝刊によると、2016年3月の神奈川県の空室率は35.54%、東京23区や千葉県でも空室率の適正水準とされる30%を3?4ポイントほど上回っているとされている。つまり現状でも多くの家主は、空き部屋に悩まされているのだ。だというのに高齢者をめぐる賃貸事情は、改善どころか悪化に向かっている。となれば将来的に不動産余り加速しても、高齢者の受け入れが大きく好転する見込みはないと考えておいた方が安全ではないだろうか。…もちろん、老後住居の安定性さえ確保できれば、賃貸と購入のどちらを選んでも心配はない。そのためには賃貸なら賃料支払いの財源、購入であれば定年前のローン完済が重要となる。

 (2018年1月11日 ZUU online)