事例(街づくり③)

財政破綻で生まれた医療介護の「夕張モデル」とは~炭鉱で栄えた夕張市は1960年には11万7000人の人口を抱えていたが、2006年に財政破綻して以来、若者やファミリー層の流出が止まず、遂に9000人を割ってしまった。…1980年代から、「炭鉱から観光へ」のスローガンを掲げてリゾート政策に突き進み、めろん城やホテルなど様々な観光施設を建て続け、巨費を投じた。それが功を奏さないまま、借金隠しもあって年間予算の3倍超、353億円の累積赤字を抱え、2006年に自治体「倒産」に追い込まれた。…再建開始前の06年には約1万3000人だった人口は8600人に減少している。なかでも40歳未満のファミリー層や若年層がほぼ半減した。教育や子育て環境の不安からだ。そのため高齢化率が49%に高まり全国でもトップクラス。市民の半数が65歳以上となった。…実は夕張市では、全国的にも「画期的」なことが起きつつある。…特養での看取りが増えたが、この10年ほど市内の全死亡者数は200人前後と変わらない。医療機関が縮小したからといって、死亡者が増えることはなかった。死のあり方が変わったのである。…森田さんは、その住民の意識転換こそが重要だと指摘する。著書の中で「ある程度の年齢になったら、いずれ医療では解決できない問題がやってくる。『それが天命だ、老衰だ、自然死だ』との終末期に対する市民の意識が変わり、『文化』というレベルにまで夕張市民を変えた」と綴る。…日本人の死亡場所の80%近くは病院であるが、欧州諸国は50%前後。オランダは既に30%を下回った。在宅医療や在宅介護が浸透すれば死亡場所も、本人が望む「非病院」「在宅」になっていく。その引き金が、夕張市では総合病院の閉鎖にあった。

(2017年3月15日 ダイヤモンド)

「地方は観光で稼ぎなさい」という号令が、甚だ見当違いである理由 「学芸員はがん」発言の根底にあるもの~観光開発はたしかに経済を潤す。だがそこで生じた利益の多くは、必ずしもコンテンツを開発した人や地方にではなく、観光の基盤をなす、交通会社や旅行会社、要するに観光インフラ事業者に落ちる仕組みになっている。そしてそうした観光インフラ事業者の多くは東京をはじめ大都市に本拠を置く。観光振興の儲けのほとんどはそうした業者に落ちる仕組みだ。観光コンテンツづくりは基本的には儲からない。儲かってもたいていの地方においてはそんなに大きな金にはならない。むしろ頑張って生まれた利益は、そのほとんどを中央に持っていかれてしまう。…訪れてみたい場所がある。それが都会の人々の生きがいにつながっていく。逆に、この地域は訪れる価値のある場所だ。そういうことが、その地域に生きる人々にとっての誇りになり、生き甲斐になり、活力につながっていく。そういうことがあるからだ。そして今の日本の状態が問題なのは、この国が今、楽しい国ではないことにある。地域が誇りを持って住んでいる場所ではなくなってきている。都市の暮らしが非常に強い閉塞感のうちにある。…中央の観光インフラ業界は、そのコンテンツづくりの負担を全て地域の人々や自治体にゆだね、しかも競争を煽った上で、「ちゃんと作れないなら、こちらは手を引きますよ」といわんばかりの姿勢になりつつはないか。…国民にもっと余裕を持って休んでもらわなければ、観光産業は成り立たない。働き過ぎの消費者に、観光に金を使えといっても無理だ。コンテンツづくりも、その消費も、もっと多くの国民の参加が必要だ。外国人を呼ぶ前に、自国民の需要を喚起しなければ、観光地のほとんどがこの先生き残れまい。…いま、観光に稼ぐ産業への転換が求められている。だがそうした転換は、この国そのものの衰退につながるだろう。むしろ余裕を持った観光、交流が促進されることで、行き詰まったこの国の経済を突破する適切な視点やアイデアが生まれてくるのではないか。…私は、そもそも観光に限らず、すべてに「稼ぎ」を強要するこの国の今の雰囲気に不安を覚える。「稼ぐ」ことだけが求められる国。そんな国、そんな暮らしに何の魅力もあるまい。

(2017年4月26日 現代ビジネス)

「観光立国」の虚実 クルーズ船が来ても乗客は素通り ハコモノ偏重でひずみ、カジノ解禁は渡りに船?~東京五輪・パラリンピックがある2020年までに訪日外国人を4000万人に――。そんな掛け声のもと、政府はクルーズ船が着岸できる港など環境整備を急いでいる。人口が減少する地方の活性化につながるという思惑もあるが、「観光立国」の理想とは異なる実態も見えてきた。…下りてきた乗客のほとんどは、中国人観光客だ。次々と大型バスに乗り込み、向かった先は港町・清水、ではない。車で約1時間のアウトレットモール。中国人女性の一人は「出航は午後2時。港近くで買い物? そんな時間ない」と話した。「国際旅客船拠点形成港湾」。国から仰々しい肩書をもらった清水港。17年度のクルーズ船の寄港数は43回、16年度より3倍近く増える。…港から歩いて15分ほどの商店街で、眼鏡店を営む春田英行さんに聞くと「クルーズ船の恩恵? 99%ない」。7月10日のSSV初入港時、港で船を出迎えていた出店は20ほどあったが、わずか20日で1店に減った。…では港が整えば人は来るか。施設を造れば消費は増えるか。机の上の計画や「ハコモノ神話」に引きずられれば、当然、目標への道のりはゆがむ。…思惑先行、霞が関お得意の言いっ放しか。いや、観光振興や地方創生を名目にしたバラマキの芽がどこかで確実に育っている。そう考える方が自然だ。

(2017年9月9日 NIKKEI STYLE)